ヴィップサニア・アグリッピナ(紀元前36年–紀元20年):アグリッパの娘でティベリウスの最初の妻
ヴィップサニア・アグリッピナ(紀元前36–紀元20)—アグリッパの娘でティベリウス最初の妻。強制離婚や宮廷の愛憎、子女の悲劇を描くローマ史。
ヴィップサニア・アグリッピナ(紀元前36年~紀元後20年)は、ローマ共和政末から初期帝政期の女性で、マルクス・ヴィップサニウス・アグリッパとカエシリア・アッティカの娘である。父アグリッパはオクタヴィアン(後のアウグストゥス)の側近で有能な将軍・行政官として知られ、政治的に重要な家門に生まれた。
幼少期と最初の結婚
ヴィップサニアは生後間もなく、政治的配慮に基づき婚約させられた。史料によれば、オクタヴィアンとアグリッパが協議のうえ、彼女をまだ幼い頃にティベリウス(後の皇帝)と婚約させたという。これは当時のローマ貴族社会で同盟関係を確立するために行われた一般的な慣行であった。
紀元前19年頃にヴィップサニアはティベリウスと結婚し、紀元前14年には息子のドゥルス・ユリウス・カエサル(Drusus Julius Caesar、一般にドゥルス[小ドゥルス]と呼ばれる)が生まれた。ドゥルスは成人してから政治的に活躍し、皇帝ティベリウスの系譜を継ぐ重要人物の一人となった。
離婚とその背景
父アグリッパは紀元前12年3月に死去した。その後アグリッパの未亡人はアウグストゥスの娘、長女ユリア(ユリア・マイオル)と結婚したことから、アウグストゥスは政治的理由によりティベリウスにヴィップサニアとの離婚とユリアとの結婚を求めた。ティベリウスは伝えられるところではヴィップサニアを深く愛しており、ユリアとは性格的に合わなかったとされる。
古典史料によれば、ティベリウスは紀元前11年にヴィップサニアと別れ、ユリアと再婚した。離婚の際、ヴィップサニアは二人目の子を妊娠していたとされるが、その胎児は出産に至らなかったという記述がある。離婚後もティベリウスはこれを生涯悔やんだと伝えられ、スエトニウスはティベリウスが偶然ヴィップサニアを見かけて涙ながらに後を追ったため、周囲がそれ以上の恥を避けるため介入したという逸話を伝えている。
再婚と子女
離婚後、ヴィップサニアは元老院議員のガイウス・アシニウス・ガルス・サロニナス(Gaius Asinius Gallus Saloninus)と再婚した。二人の間には複数の子が生まれ、息子たちは後に政界や行政の場で活動した者もいた。史料では長男の名が挙げられ、後にクラウディウス帝政期に政治的な弾圧を受けて処刑されたと伝えられている。
死と評価
ヴィップサニアは紀元後20年に没したとされる。彼女に関する史料は限られているが、父アグリッパとの家系、ティベリウスとの結婚とその悲劇的な別離、そしてアウグストゥス政権下における結婚政治の典型例として歴史家の関心を引く人物である。主な情報源にはスエトニウスなどの古代史料があり、私生活と政治が密接に絡むローマ上流社会の一端を示している。
主な出来事(簡略年表)
- 紀元前36年:出生
- 紀元前19年頃:ティベリウスと結婚
- 紀元前14年:長男ドゥルス・ユリウス・カエサル誕生
- 紀元前12年:父アグリッパ死去
- 紀元前11年:ティベリウスと離婚、ティベリウスはアウグストゥスの娘ユリアと結婚
- 離婚後:ガイウス・アシニウス・ガルス・サロニナスと再婚、複数の子をもうける
- 紀元後20年:没
この人物像は古代史料の記述に基づくものであり、詳細や評価には史料間での差異も存在する。特に個人の感情描写や離婚の事情などは後代の解釈が混在して伝えられている点に留意されたい。
質問と回答
Q: ヴィプサニア・アグリッピナとは誰ですか。A: ヴィプサニア・アグリッピナはマルクス・ヴィプサニウス・アグリッパの最初の妻カエシリア・アッティカとの間の娘です。
Q: ヴィプサニア・アグリッピナは1歳の誕生日を迎える前に誰と婚約したのですか?
A: ヴィプサニア・アグリッピナは1歳の誕生日を迎える前に、オクタヴィアヌスと彼女の父によってティベリウスと婚約させられました。
Q: ヴィプサニア・アグリッピナは誰と結婚したのですか?
A: ヴィプサニア・アグリッピナは紀元前19年頃にティベリウスと結婚しました。
Q: ヴィプサニア・アグリッピナの息子は誰で、いつ生まれましたか?
A: ヴィプサニア・アグリッピナの息子はドルス・ユリウス・カエサルで、紀元前14年に生まれました。
Q: なぜティベリウスはヴィプサニア・アグリッピナと離婚したのですか?
A: アウグストゥスがヴィプサニア・アグリッピナと離婚し、彼の娘である長女ユリアと結婚するよう強要したためです。
Q: ティベリウスとの離婚後、ヴィプサニア・アグリッピナは誰と結婚しましたか?
A: ヴィプサニア・アグリッピナはティベリウスとの離婚後、元老院議員ガイウス・アシニウス・ガッラス・サロニヌスと結婚しました。
Q: ヴィプサニア・アグリッピナがガイウス・アシニウス・ガッルス・サロニヌスとの間にもうけた長男はどうなりましたか?
A: ヴィプサニア・アグリッピナの長男ガイウスは、クラウディウス帝の悪名高き第三夫人メッサリーナによって死に追いやられました。
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