ヴク・カラジッチ — セルビア語の改革者・辞書編纂者、民謡収集の先駆者(1787–1864)
ヴク・カラジッチ(1787–1864):セルビア語改革の父、初の辞書編纂者で民謡収集の先駆者。彼の生涯と文化遺産を詳述。
ヴーク・ステファノヴィッチ・カラジッチ(Vuk Stefanović Karadžić、セルビア語:アルファベット。Вук Стефановић Караћ; 1787年11月7日 - 1864年2月7日)は、セルビア語の言語改革者、辞書編纂者、そして民謡収集の先駆者です。彼は当時の書き言葉を話し言葉に近づけることで、現代のセルビア語の基礎を築きました。ヴークの業績は、言語正書の簡素化、民俗文学の収集と記録、そして初期の近代的辞書・文法書の編纂に及び、19世紀セルビア文化・文学において最も重要な人物の一人とされています。
言語改革の要点
ヴークは「話すように書け、書かれているように読め」という原則に基づき、実際に人々が日常で使う口語を文語として採用することを主張しました。これにより従来の古典的な文体(教会スラヴ語や重厚な文語)からの転換が進み、以下のような具体的な改革を行いました:
- 綴字と正書法の簡素化と規準化(音素主義に基づく表記の導入)
- 現地の口語方言に基づく語彙や語形の採用
- 辞書や文法書の編纂を通じた標準化の推進
これらの改革は当初、保守派や教会からの反発を招きましたが、徐々に受け入れられ、後の標準セルビア語の形成に大きく寄与しました。
辞書・文献編纂と学術的貢献
ヴークは近代的な辞書と辞書編纂の方法をセルビア語にもたらしました。彼の辞書は口語語彙を広く収録し、言語使用の実態を反映するものでした。また、文法や綴字に関する著作を通して、言語教育や出版にも影響を与えました。彼の研究と出版物は当時のヨーロッパの言語学者たちの注目を集め、多くの外国の学者とも交流しました。
民謡・民俗文学の収集
ヴークはセルビアの村々を回り、叙事詩、民謡、伝承、ことわざや民話などの口承文学を大量に収集して記録しました。これらの記録は民族の文化的アイデンティティを明らかにするだけでなく、当時失われつつあった口承伝統を後世に伝える重要な資料となりました。彼の収集は文学的価値だけでなく、歴史・民俗学の研究にも貴重な一次資料を提供しています。
評価と遺産
ヴーク・カラジッチの業績はセルビア語の標準化と近代セルビア文化の形成に決定的な影響を与えました。彼は国内で賛否両論を呼びましたが、長期的には言語・文化の発展にとって不可欠な存在とみなされています。今日では、彼の業績は学界や一般社会で高く評価され、記念碑や研究が多数存在します。また、彼が収集した民謡や資料は現在も研究・翻訳され続けています。
簡潔な生涯の流れ
- 1787年:生誕(出自は小村の家庭)
- 青年期から言語改革と民俗収集に着手
- 辞書・文献の編纂と出版活動を通じて名を馳せる
- 生涯を通じて多くの民謡・口承資料を収集
- 1864年:没(ウィーンで没したとされる)
ヴーク・カラジッチの仕事は、単なる学術的業績に留まらず、民族的自覚と文化的遺産の保存・継承に深く結びついています。彼の理念と成果は、現代のセルビア語と文化を理解するうえで今なお重要な出発点となっています。

ヴューク・カラジッチ
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