ウエストコート(ベスト)とは|男性礼装の歴史・起源・着こなしガイド
ウエストコート(ベスト)の起源と歴史から正しい着こなし、フォーマルマナーやコーデ術まで網羅した男性礼装の完全ガイド。
ウエストコート(米国名:ベスト)は、袖のない上半身の衣服である。ドレスシャツとネクタイの上、コートの下に着用し、男性の正装の一部となる。スリーピース・スーツの3番目のピースである。
ウエストコートの歴史は古く、一般には17世紀の英国王チャールズ2の時代までさかのぼると言われる。伝承では、シャー・アッバース朝の宮廷を訪れた英国人が着ていたペルシャのベストに影響を受け、当時の宮廷や上流階級の間で取り入れられたのが起源とされている。以降、形や素材、飾りは時代ごとに変化し、18〜19世紀には非常に装飾的なものも多く作られたが、20世紀以降はより実用的で着回しの利くデザインが主流になった。
ウエストコートは、室内でジャケットを脱いでもフォーマルな装いを保てるという利点がある。見た目にきちんと感を与えるだけでなく、体形を整えてスマートに見せる効果もあるため、式典やビジネス、カジュアルな着こなしまで幅広く使える。
主なタイプとディテール
- シングルブレスト:前立てが一列のボタンで閉じる最も一般的なタイプ。普段使いからフォーマルまで対応。
- ダブルブレスト:前立てが重なり合うタイプで、よりフォーマルでクラシックな印象。
- ロウカット(深いV字):ネクタイやタイバーを見せるために深めのVラインにしたもの。シャツとネクタイがよく見える。
- ハイカット(浅いV字):より保守的でフォーマル。朝礼服や伝統的な礼服に使われることが多い。
- 素材と裏地:ウール、ツイード、コットン、リネン、シルク、ベルベットなど。正式な場では光沢のあるシルクやウール混が好まれる。背面は滑りの良い素材やバックルで幅を調整できる仕様が一般的。
- 装飾:ポケットウォッチ用のチェーン用スリットや胸ポケット、飾りボタン、ブロケード地などがある。
着こなしとマナー
- ボタンの留め方:立っているときは基本的にウエストコートを留める。シングルブレストなら最下段のボタンは外すのが伝統(例えば5つボタンなら上4つを留める)。ダブルブレストはデザインに従って留める。座る際は外すのが一般的。
- ジャケットとの関係:ジャケットを着たときにウエストコートがちらりと見えるのが美しいバランス。ジャケットを着ているときでもウエストコートはしわなく整っているべき。
- シャツとネクタイ:ドレスシャツとネクタイの組み合わせで印象が大きく変わる。ロウカットのウエストコートはネクタイを見せるデザインなので、タイとシャツのコントラストを考える。
- パンツとのバランス:ウエストコートの丈はパンツのウエストラインを覆うか、ぴったり合う長さが理想。長すぎると寸胴に見える。
- 礼装との使い分け:黒タイ(タキシード)での使用は白または黒のウエストコートが正式。モーニングコートや昼の正礼装では特定の色や形が求められるため式次第に従う。
フィットと採寸のポイント
- 肩と襟元:ウエストコート自体は肩幅を強調しないが、襟の収まりがシャツカラーと干渉しないこと。
- 胸と胴回り:ボタンを留めたときに引きつれや隙間がないこと。窮屈すぎてもゆるすぎても印象が悪くなる。
- 丈:前端がパンツのウエストに自然に乗る長さ。お腹を覆いすぎない。
- バックベルト:背面のベルトで細かく調整できると動きやすく、見た目もすっきりする。
色・柄・素材の選び方
- ビジネス:ネイビー、チャコールグレー、ダークグレーなど無地や控えめなストライプ。
- フォーマル:ブラックタイなら黒または白、モーニングや正礼装では指定の色や質感を優先。
- カジュアル:ツイードやコットン、パステルやチェック柄などで遊び心を出せる。
- 季節:夏はリネンや軽いコットン、冬はウールやツイードが適する。
アクセサリーと演出
- ポケットウォッチやチェーンは伝統的でクラシカルな雰囲気を強める。
- ポケットチーフ(胸ポケットに差すハンカチ)で色味のアクセントを加えられる。
- タイバーやラペルピンなど小物で個性を出すことも可能。
手入れと保管
- 多くはデリケートな素材を使うため、基本はドライクリーニング推奨。頻繁に着る場合は部分洗いと風通しで対応。
- 保管はハンガーで形を整えて、湿気や直射日光を避ける。裏地やボタンのチェックも忘れずに。
ウエストコートは伝統的なフォーマルウェアであると同時に、素材やシルエットを変えることで現代的なカジュアルスタイルにも応用できる便利なアイテムです。場面に応じた素材・色・着こなしのルールを押さえれば、見た目の印象を大きく高められます。

ツーピーススーツやジャケットとパンツのセパレートタイプに合わせる、伝統的なウエストコートです。

絹のフランス製ウエストコート、1750年頃、LACMA。
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