フェリデ・ラシチ博士は、1999年に拷問被害者のためのコソバリハビリテーションセンター(KRCT)を創設し、以来エグゼクティブ・ディレクターとして活動を続けています。アルバニアのティラナ大学医学部を卒業し、医師としての専門性を基盤に、戦後の被害者支援・人権擁護の先駆的な役割を果たしてきました。
KRCT設立と初期の活動
ラシチ博士は1999年3月に活動を開始しました。コソボ紛争終結後、多くの住民が避難または追放され、コソボの人口の半数が一時的に国外へ退避した時期に、帰還者や残留者の中で拷問や戦争被害を受けた人びとへの医療・精神・社会的支援が緊急の課題となりました。こうした状況に対応するためにKRCTを設立し、被害者の身体的治療、心理社会的ケア、法的支援を総合的に提供することを目指しました。
支援の内容とアプローチ
- 医療的リハビリテーション:拷問や暴力による負傷の治療、慢性症状への対応。
- 心理社会的支援:トラウマに基づくカウンセリング、グループ療法、家族支援。
- 法的支援とドキュメンテーション:被害の記録化、司法手続きへの助言や連携。
- 社会的・経済的再統合:職業訓練、雇用支援、生活再建のためのプログラム。
- 研究と記録:被害や人権侵害の文書化を通じた証拠蓄積と政策提言。
KRCTは多職種(医師、心理士、ソーシャルワーカー、法務支援担当など)による包括的かつトラウマに配慮した支援を重視しており、地域社会でのスティグマ(汚名)除去や社会的包摂にも取り組んでいます。
戦時性暴力被害者への取り組みと法的承認
ラシチ博士が特に長年注力してきたのは、コソボにおける戦時中の性暴力の生存者たちへの支援と権利擁護です。ほぼ20年間にわたる粘り強いアドボカシーと支援活動の結果、戦時性暴力の生存者が戦争の民間人被害者として法的に認識される道が開かれました。2017年には、コソボ政府が戦時性暴力生存者に対する金銭的支援(年金に相当する制度など)を提供する重要な決定を行い、これは長年の活動の成果の一つとされています。
拘束者・被拘禁者の人権擁護
2007年以降、ラシチ博士は「自由を奪われた人々(被拘禁者)」の人権擁護にも積極的に取り組んできました。ロビー活動や政策提言を通じて、被拘禁者の処遇改善や法的枠組みの整備に影響を与え、保護と促進のための実務的な改善が進められてきました。
国際的評価と受賞
ラシチ博士はリハビリテーション、人権擁護、研究・文書化、アドボカシー、経済的再統合の分野で一貫して活動を続け、その功績が国際的にも評価されました。2018年には米国国務省より「勇気ある女性のための国際賞(International Women of Courage Award)」を受賞しています。これは被害者支援や人権擁護に対する長年の貢献を称えるものです。
成果と残された課題
ラシチ博士とKRCTの活動は、多くの生存者の回復と社会復帰を支え、戦時性暴力被害者の法的承認や意識変革に寄与してきました。一方で、以下のような課題は依然として残っています。
- スティグマや差別の根絶、地域社会での包括的支援の促進。
- 法制度の実施・運用の確実化と持続的資金の確保。
- 被害の文書化・証拠保全と、包括的なトラウマケア体制の拡充。
現在の活動と今後の展望
ラシチ博士は現在もKRCTを通じて被害者支援と人権擁護に取り組み続けており、地域や国際的な関係機関と連携しながら、支援サービスの質向上、政策提言、若手専門家の育成などを進めています。戦争の影響を受けた人々の回復と社会的包摂を実現するためには、被害者中心の長期的な支援と社会全体での理解促進が引き続き必要です。
フェリデ・ラシチ博士の活動は、個別の治療や支援を越えて、コソボにおけるトラウマ回復と人権基盤の強化に重要な足跡を残しています。