弾力性とは:定義・例・物理・経済での応用をわかりやすく解説
弾力性を基礎から図解でスッキリ解説。物理現象や経済での応用、具体例・計算例、日常での見分け方まで学べる初心者向け入門ガイド。
弾力性という意味もある。
弾力性(概要と定義)
弾力性(だんりょくせい)とは、外から力を加えたときに形や状態を変え、力を取り除くと元の形や状態に戻ろうとする性質を指します。日常語では「弾力がある」「弾力性が高い」といった表現で使われ、物質の性質だけでなく、経済の「価格変化に対する需要の変化」のような比喩的な使い方もされます。
物理学での弾力性(材料力学)
物理・材料の分野では、弾力性は次のように定量的に扱われます。
- 応力(σ):単位面積あたりにかかる力(N/m²=Pa)。例:σ = F / A。
- ひずみ(ε):元の長さに対する変化の割合(無次元)。例:ε = ΔL / L。
- ヤング率(E)(弾性係数):材料の伸びに対する応力の比。線形領域では E = σ / ε。単位はPa(パスカル)。
フックの法則(線形弾性範囲)では、ばね定数kやヤング率で弾性挙動を表せます。
- フックの法則:F = k x(Fは力、kはばね定数、xは変位)。
- 弾性エネルギー:変形に蓄えられるエネルギーは U = 1/2 k x²。体積あたりでは U/V = 1/2 σ ε。
典型的なヤング率の例:
- ゴム:およそ10⁶〜10⁸ Pa(0.001〜0.1 GPa)程度(材料や条件に依存)
- 鋼:およそ2×10¹¹ Pa(約200 GPa)
弾性限界・塑性(弾力と弾塑性の違い)
弾性限界とは、力を取り除くと完全にもとの形に戻る限界までの範囲です。これを超えると永続的な変形(塑性変形)が生じます。つまり、弾力性は「可逆的な変形能力」を示す概念であり、材料設計では弾性限界や降伏点(yield point)を考慮します。
測定方法・実験
- 引張試験:試験片を引っ張り、応力−ひずみ曲線を得る。ヤング率、降伏強さ、破断強さなどを測定。
- 曲げ試験、圧縮試験:用途に応じて異なる試験で弾性特性を評価。
- 動的機械解析(DMA):周波数依存の弾性(貯蔵弾性率、損失弾性率)を測る。粘弾性材料の評価に有用。
弾力性の実用例(工学・日常)
- ばねやショック吸収材(自動車サスペンションなど)
- 建築材料の設計(地震時の挙動を想定する弾性設計)
- スポーツ用品(ラケット、シューズの中敷きなど)のクッション性
- 医療用インプラントや人工関節の材料選定
経済学での弾力性(価格弾力性など)
経済学では「弾力性」は別の意味で使われ、主に変数の相対変化の比率を表します。もっとも代表的なのは 価格弾力性(需要の価格弾力性) です。
- 価格弾力性(ε):ε = (%Δ需要量) / (%Δ価格)。通常、需要量は価格に反比例するため符号は負になることが多い。
- 解釈:|ε| > 1 → 弾力的(elastic)(価格が少し変わると需要が大きく変化)、|ε| < 1 → 非弾力的(inelastic)(価格変化に対して需要はあまり変わらない)。
- 交差価格弾力性:ある財の価格変化が別の財の需要に与える影響。代替財なら正、補完財なら負。
- 所得弾力性:所得変化に対する需要変化。正常財(正)、劣等財(負)など。
応用例:
- 税の帰着(誰が実質的に負担するか)は、需要と供給の弾力性の相対関係によって決まる。
- 企業の価格戦略:独占企業のマークアップはLerner指数 = (P − MC) / P = −1/ε(ここでεは需要の価格弾力性)。弾力性が小さい(非弾力的)ほど高いマークアップが可能。
- 価格変更による売上・収入の見積もり:弾力性を使って価格変更の効果を予測する。
計算例(簡単な数値例)
価格が10%上昇して需要が−20%変化した場合、価格弾力性は ε = (−20%) / (10%) = −2 → |ε| = 2(弾力的)。
価格を上げると売上(価格×数量)がどう変わるかは弾力性で判断可能:弾力的なら売上は減少、非弾力的なら増加する可能性があります。
弾力性と粘性・粘弾性
粘性は流体や粘性材料における抵抗(時間依存の変形)を示し、弾力性(即時に戻る可逆変形)とは対照的です。多くの現実材料は時間依存性を持ち、粘弾性(弾性と粘性の両方の性質)を示します。例えば、ポリマーやゴムはゆっくり力をかけると徐々に伸び(クリープ)、力を除くと緩やかに戻る特性を持ちます。
まとめ(要点)
- 弾力性は「元に戻ろうとする性質」を表す概念で、物理的意味と経済的意味の両方で重要。
- 物理では応力・ひずみ・ヤング率などで定量化し、弾性限界を超えると塑性変形が生じる。
- 経済では割合変化の比として定義され、価格政策や税の帰着、企業の価格戦略で応用される。
- 実世界では粘弾性などの時間依存性も考慮する必要がある。
百科事典を検索する