子宮内膜症とは|原因・症状・診断・治療法と妊娠への影響を解説
子宮内膜症とは、子宮内膜の細胞が子宮の内腔以外の場所(卵巣、腹膜、子宮と直腸のあいだの袋、膀胱や腸の表面など)で増殖する病気です。増殖した組織は月経周期に反応して出血や炎症、癒着(組織同士がくっつくこと)を引き起こし、痛みや不妊の原因になります。疫学的には、15歳から44歳までの女性の約10〜15%が子宮内膜症を有していると推定され、特に30〜40歳代に多く見られます。子宮内膜症は治療可能な病気であり、適切な治療によって痛みの軽減や妊娠の助けになることがあります(治療は、場合によっては不妊治療と組み合わせて行われます)。
原因(考えられている要因)
子宮内膜症の正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、いくつかの仮説とリスク要因があります。
- 逆流性月経説:月経血が卵管を通って腹腔内へ逆流し、子宮内膜組織が腹膜に着床して増殖するという説。
- 体腔間皮の化生(転化)説:腹膜や他の組織が子宮内膜に似た組織に変化するという考え方。
- 免疫異常:異常な免疫反応により、異所性の内膜組織が排除されにくくなる可能性。
- 遺伝的素因:家族歴がある場合に発症リスクが高まる傾向があります。
- エストロゲン依存性:エストロゲン(女性ホルモン)が病変を増殖させるため、月経がある年齢で発症しやすい。
主な症状
症状には個人差があります。軽症で無症状の人もいれば、重度の痛みや生活障害をきたす人もいます。
- 月経痛(生理痛):時に日常生活を阻害するほど強い下腹部痛や腰痛が起こります。
- 慢性的な骨盤痛:月経期以外でも持続的に痛みを感じることがあります。
- 性行為時の痛み(性交痛):特に深部性交で痛みが強くなることがあります。
- 不妊:妊娠しにくくなることがあります(後述)。
- 月経量の増加・不正出血:出血が多かったり不規則になることがあります。
- 排尿・排便時の痛みや症状:膀胱や腸が関与している場合、排尿痛、頻尿、便秘や下痢、血便など。
- 卵巣嚢胞(チョコレート嚢胞):卵巣内に血液がたまり嚢胞を形成することがあります。
診断
診断は問診と身体診察、画像検査、必要に応じて手術的検査を組み合わせて行います。
- 問診・骨盤診察:月経痛や性行為痛、不妊の有無などを詳しく聴取し、骨盤診察でしこりや癒着の疑いを評価します。
- 超音波検査:経膣超音波が卵巣の嚢胞(チョコレート嚢胞)や子宮周囲の異常を確認するのに有効です(超音波検査があります)。腹部からの超音波検査が用いられることもあります。
- MRI:複雑な病変部位や深在性子宮内膜症(深部浸潤性)を評価するために使われます。
- 腹腔鏡検査(ラパロスコピー):視覚的に病変を確認し、組織を採取して顕微鏡で診断することで確定できます。腹腔鏡は子宮内膜症を確定診断する唯一の方法とされ、同時に治療(切除や焼灼)が可能です。
- 血液検査:一般検査やCA-125などの腫瘍マーカーが参考になることがありますが、特異的ではありません。
治療(目的に応じた選択)
治療は「痛みのコントロール」「妊孕性の温存・改善」「臓器合併症の予防」を目的に、薬物療法と手術療法を単独または併用して行います。個々の希望(妊娠希望の有無)や病変の程度によって方針が変わります。
薬物療法
- 鎮痛薬:非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などで痛みを緩和します。
- 低用量ピル(経口避妊薬):月経をコントロールして病変の増悪を防ぎ、痛みを軽減します。いくつかの女性で効果が認められます。
- プロゲスチン(黄体ホルモン)療法:ノルエチステロン、デポ・メドロキシプロゲステロンなど。症状改善と病変縮小に有効です。
- 子宮内膜症に用いるホルモン療法:ミレーナ(レボノルゲストレル子宮内システム)などのホルモン放出IUDも選択肢になります。
- GnRHアゴニスト/アンタゴニスト:一時的に低エストロゲン状態を作り病変を小さくします。副作用(更年期様症状、骨密度低下)に注意が必要で、必要に応じて「add-back療法」(低用量ホルモン補充)を行います。
- アロマターゼ阻害薬:難治例で使用されることがあり、骨密度管理が重要です。
手術療法
- 腹腔鏡手術(保存的手術):病変の切除や焼灼、癒着剥離、卵巣嚢胞(チョコレート嚢胞)の摘出などを行い、痛みや不妊の改善を図ります。
- 根治的手術:子宮摘出(子宮全摘)や両側卵巣付属器切除は、症状が重く子どもを望まない場合の選択肢です。ただし完全な根治にはならないことや、ホルモン面での影響があるため慎重な検討が必要です。
- 術後管理:手術後も再発予防や症状管理のために薬物療法を併用することがあります。
妊娠への影響・不妊
子宮内膜症は不妊の原因の一つで、患者の約30〜50%に不妊を伴うと報告されています。機序は複合的で、次のような影響が考えられます。
- 癒着や卵管機能障害による受精障害
- 卵巣の機能低下(卵巣組織が損なわれる、卵巣嚢胞の存在など)
- 卵子・受精卵の移送や着床に関わる環境の変化(炎症性因子の増加など)
治療としては、病変の外科的切除が妊娠率の改善に寄与することがあり、特に卵巣嚢胞や明らかな癒着を伴う症例で有効です。妊娠を早めに望む場合、腹腔鏡手術後に自然妊娠することが期待できますが、状態により体外受精(IVF)などの生殖補助医療が推奨されることもあります。妊娠中は多くの場合症状が軽減しますが、必ずしも完全に治るわけではありません。
合併症・経過・再発
- 卵巣嚢胞(チョコレート嚢胞):感染や破裂、卵巣の機能低下を招くことがあります。
- 癒着による臓器障害:腸閉塞や排尿・排便障害を起こすことがあります。
- 再発率:治療後も再発することがあり、長期的なフォローと症状に応じた治療継続が必要です。
- 稀に悪性化:ごくまれに卵巣の腫瘍化が報告されていますが頻度は低いです。
生活上の工夫と支援
- 鎮痛薬や温熱療法、運動、ストレス管理が痛みの軽減に役立つことがあります。
- 栄養や睡眠、適度な運動を心がけることが症状のコントロールに寄与します。
- 慢性的な痛みや不妊で悩む場合は、婦人科医に加えて疼痛専門医、心理カウンセラー、生殖医療の専門家など多職種チームでの支援が有用です。
- 患者会や支援グループに参加すると情報や精神的支えが得られることがあります。
受診のタイミング
月経痛が強く日常生活に支障をきたす、性交痛がある、妊娠を希望していてなかなか妊娠しない、月経以外にも骨盤痛や排便・排尿症状がある場合は婦人科を受診してください。診断・治療は個々の状況に合わせて計画されます。
早期に専門医と相談することで、症状の軽減や妊娠希望への対応が可能です。治療法にはそれぞれ利点と副作用がありますので、医師とよく相談して最適な方針を決めましょう。
質問と回答
Q:子宮内膜症とは何ですか?
A:子宮内膜症は、子宮の内膜細胞に似ているが同一ではない組織が、子宮の外で増殖する病気です。
Q:子宮内膜症はよくある病気ですか?
A:15歳から44歳までのアメリカ人女性の11%がこの病気にかかっていると言われています。30~40歳の女性に多くみられますが、年齢や性別に関係なく発症します。
Q:子宮内膜症は生殖機能に影響を与えますか?
A:はい、子宮内膜症は時に生殖能力に影響を与えることがあります。子宮内膜症を治療することで、妊娠しやすくなる可能性があります。
Q:子宮内膜症の症状にはどのようなものがありますか?
A:子宮内膜症の症状には、長く続く痛み、月経の問題、生活のさまざまな部分に影響する痛みなどがあります。
Q: 子宮内膜症は、どのように診断するのですか?
A: 子宮内膜症かどうかを調べるために、医師は骨盤の検査や卵巣の嚢胞を見るための超音波検査、または体の中を撮影するためのMRI検査などの医学的検査を指示することがあります。
Q: 内膜症はどのように治療するのですか?
A: 内膜症は、痛みの症状を軽減するために避妊薬やゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)作動薬などの薬で治療します。また、腹腔鏡検査という手術で、医師が体の中を見てそれに関連する組織を見つけ、顕微鏡下で生検用のサンプルを取って診断を確認します。