ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析法)とは?原理・用途・利点・注意点

ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析法)の原理・用途・利点・注意点をわかりやすく解説。高感度な微量元素・同位体分析の実務ポイントと規制情報も網羅。

著者: Leandro Alegsa

誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)は、高感度な質量分析法の一種です。1012分の1(1兆分の1)以下の濃度で、さまざまな金属やいくつかの非金属元素を検出・定量できます。原理的には、試料をまず霧状にして高温のプラズマでイオン化し、そのイオンを質量分析計で分離・検出する手法です。プラズマは一般にキャリアガスとしてアルゴンを使用して生成します。イオン化された試料は一連の小さな円錐(サンプラーコーン、スキマーコーン)を通して質量分析計側の真空チャンバへ導かれます。機器構成や運転条件によって検出限界や分解能が大きく変わります。

原理と装置の構成

イオン化(プラズマ):ネブライザーで作られた微小な液滴はトーチで高温の誘導結合プラズマ(数千〜1万K)に導かれ、水分が蒸発し原子が励起・イオン化されます。

インターフェース(コーン系):生成されたイオンは大気圧から高真空へ移行するために、サンプラーコーンとスキマーコーンを通過します。これによりプラズマと質量部を隔てつつイオンを導入します。

イオン光学系・質量分析部:イオンレンズで集束・選別した後、四重極(quadrupole)、磁場型(sector field)、飛行時間(TOF)などの質量分析計で質量数に応じて分離します。四重極がもっとも一般的です。

検出器:二次電子増倍管(SEM)やイオンカウンタでイオンを電気信号に変換し、濃度に換算します。

代表的な分析手順と機能

  • 試料調製(溶解、酸処理、希釈、フィルトレーション)
  • ネブライザーでのサンプル霧化
  • プラズマでのイオン化→インターフェース通過→質量分離→検出
  • 内部標準や標準物質を用いた校正:定量のために内部標準元素を加えることが一般的
  • 同位体比測定:装置と条件により高精度の同位体分析が可能
  • コリジョン/リアクションセル:HeやH2などのガスを用いて多原子イオン干渉(スペクトル干渉)を低減

主な用途

  • 環境分析:河川・海水・地下水中の重金属(Pb、Cd、As、Hgの一部前処理法など)や希少元素の検出
  • 食品・農産物検査:微量金属や鉛・カドミウム等の残留検査
  • 臨床検査:血液・尿中のトレース元素測定
  • 地球化学・地質学:同位体比測定による年代測定や起源解析
  • 材料・半導体分野:超微量不純物の評価
  • 法科学・法医学:鉱物・ガンマ痕跡の元素プロファイリング
  • 放射性物質のトレーサー解析や核関連試料の分析(用途により厳格な管理が必要)

ICP-MSの用途の多様性はICP-OES(ICP発光分光)を超える点が多く、特に同位体分析も行える点が特徴です。

利点

  • 超高感度:ppt(10−12)レベルまで検出可能な場合があり、微量元素の測定に優れる。
  • 広範な同時多元素分析能力:短時間で多数元素の定量が可能。
  • 同位体分析にも対応:同位体比を高精度で測定でき、地質・環境・トレーサー解析に有用。
  • 広い線形範囲:ナノモル〜ピコモルレベルまで定量できる場合がある。

注意点・制約(欠点と対策)

  • 汚染に敏感:分析感度が高いため、使用する試薬や容器、ラボ環境由来の微量汚染が結果に影響します。一次ブランク管理やクリーンな前処理が必須です。
  • スペクトル干渉(同位体間干渉・多原子干渉):例えば40Arと40Caの干渉や、分子イオン(例:ArO+)による干渉が起こります。コリジョン/リアクションセルや高分解能型(sector field)で対処します。
  • マトリックス効果・イオン抑制:高塩分や高濃度の試料は信号抑制やスプレー効率低下を引き起こすため、希釈やマトリックスマッチング、内部標準の使用が必要です。
  • 装置の維持管理:トーチ、コーン、ネブライザーは目詰まりや摩耗が起きるため定期的な清掃・交換が必要で、ランニングコスト(アルゴン消費、メンテ費用)がかかります。
  • 検査対象の適用範囲に制限あり:分析できない同位体や化合物形態(化学形態分析は別手法が必要)もあるため、結果の解釈には注意が必要です。

サンプル前処理と品質管理

正確な定量のために以下の対策が重要です:

  • 適切な酸分解や溶解処理(濃硝酸、過酸化水素など)で試料を均一化する。
  • ブランク(容器ブランク・試薬ブランク)管理、空白値の測定。
  • 内部標準元素の添加による信号補正。
  • 標準添加法や認定参照材料(CRM)を用いた検量線と回収率確認。
  • 複数回の測定・試料の複製測定で再現性を評価。

安全・法規制

ICP-MS装置は高温プラズマを用いるため運転時の安全管理が必要です。また、ICP-MSは同位体比解析などにより軍事的応用(例:核物質関連)への応用可能性があるため、機器の輸出や高性能モデルは特別な輸出規制の対象となることがあります。実験廃液は酸性で重金属を含む場合があるため、適切な処理と廃棄が必要です。

まとめ(選択のポイント)

ICP-MSは極めて高感度で多元素同時分析や同位体比測定が可能な強力な分析法です。環境、食品、臨床、地球化学、材料分析など幅広い分野で利用されますが、試料前処理やブランク管理、スペクトル干渉の対策、装置メンテナンスが結果の信頼性を左右します。目的に応じてICP-OESや他の同位体・化学形態分析手法と組み合わせることで、より完全な分析結果が得られます。

質問と回答

Q: ICP-MSとは何ですか?


A: ICP-MSはInductively Coupled Plasma Mass Spectrometryの略で、高感度質量分析計の一種です。

Q: ICP-MSは何を検出できるのですか?


A: ICP-MSは、1012分の1(1兆分の1)以下の濃度で、さまざまな金属といくつかの非金属を検出することができます。

Q: ICP-MSはどのように機能するのですか?


A: ICP-MSは、イオンを発生させる誘導結合プラズマと、イオンを分離・検出する質量分析計の組み合わせで動作します。

Q: ICP-MSのプラズマのキャリアガスには、どんなガスが使われていますか?


A:ICP-MSのプラズマを作るためのキャリアガスとしては、アルゴンが一般的に使われています。

Q:微量元素分析において、原子吸光法と比較してICP-MSの利点は何ですか?


A: ICP-MSは、原子吸光法よりも高速、高精度、高感度であることが利点です。

Q:ICP-MSの限界は何ですか?


A:ICP-MSの限界としては、実験器具や試薬に含まれる微量な汚染物質によって分析法が乱されやすいこと、分析対象によってはICP-MSで測定できない場合があることなどが挙げられます。

Q: ICP-MSのハードウェアには、どのような規制措置がありますか?


A:ICP-MSのハードウェアは、原子爆弾の製造に役立つため、特別な輸出規制の対象になっています。


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