アヌスヴァーラ(サンスクリット語:अनुस्वारः anusvāra)は、多くのインド系文字(ブラーフミー系書記体系)で用いられる鼻音・鼻母音を示すダイアクリティカルマーク(ダイアクリット)です。書かれた位置や言語の音韻規則によって、その実際の発音は大きく異なります。国際表記(IAST)ではしばしば「ṃ」と表記され、Unicodeでも各スクリプトに対応する符号点が定められています(例:デーヴァナーガリーのANUSVARAは U+0902、ベンガル語の SIGN ANUSVARAは U+0982)。
歴史的・サンスクリット語の文脈では、アヌスヴァーラは「同化した(同所性の)鼻音」や「母音の鼻音化」を表す記号として扱われます。例えば、サンスクリット語の単語 संस्कृतम्(saṃskṛtam)のように、隣接する子音に応じて [m]・[n]・[ŋ] 等の同所性鼻音に変化すると分析されることが多いです。なお、デーヴァナーガリーでは鼻音を示す点(ビンディ)として文字上に配置され、例として मं(m + アヌスヴァーラ)が挙げられます。チャンドラビンドゥ(ँ)との区別にも注意が必要で、チャンドラビンドゥは主に母音の鼻化(母音の上に小さな弧と点)を示しますが、実際の用法は言語や時代によって重なります。
- ベンガル語:Onushshar(Onushshor)、Anusbar、Onusbar、Onuswar などと書かれることがある(ローマ字表記の揺れ)。
ベンガル語では、アヌスヴァーラに相当する記号 ং(一般に「オンシュシャール / অনুশ্বর」などと呼ばれる)は、語中では主に /ŋ/(英語の singer の ng に近い)を表します。たとえば বাংলা は発音 [baŋla] とされ、ベンガル語の音韻論上はこの記号を独立の子音(鼻音)として扱う場合が多い一方で、文字体系上は前の子音に付随して書かれる(常に前の子音に直接隣接する)という点で、表記上の特殊性があります。タイトルや見出しで文字間を開けるような場面でも、オンシュシャールは視覚的には前の文字に結びついて表示されます。
デーヴァナーガリーやその他のインド諸語におけるアヌスヴァーラの機能は言語によって異なります。例えば:
- 古典サンスクリット:隣接する子音と同所の鼻音に同化する(同化鼻音)ことが多い。例:संज्ञा(saṃjñā)の /ṃ/ は [ŋ] のように発音される環境がある。
- 現代ヒンディー語:単語末や母音の後に来ると母音の鼻化(ã のような音)を示すことがあり、子音の前では同所鼻音を表すことがある(話者や方言により差がある)。
- ベンガル語:上記の通り主に /ŋ/ を表す明確な記号として機能する。
表記と発音の関係、ならびに同じ記号が異なるスクリプトで微妙に異なる用途を持つことは、インド系言語の典型的な特徴です。学習や正確な表記の確認のためには、対象言語ごとの正書法(正字法)や音韻論の資料を参照することをおすすめします。詳しくはスクリプトや言語ごとの記事(例えばデーヴァナーガリーやベンガル文字に関する文献)を参照してください(関連項目や研究文献へのリンクがある場合はそちらも参照すると理解が深まります)。