ドニゼッティ『マリア・ストゥアルダ』|1834年初演の名作オペラと女王対決
ドニゼッティの名作オペラ『マリア・ストゥアルダ』—1834年初演。史実を超えた女王メアリーvsエリザベスの劇的対決と名場面を詳しく解説。
マリア・スチュアルダは、フリードリヒ・シラーの戯曲『マリア・ストゥアルダ』を下敷きに、ガエターノ・ドニゼッティがジュゼッペ・バルダーリの台本で作曲した三幕のイタリア・オペラである。1834年10月18日にナポリで初演されたが、検閲上の理由によりブオンデルモンテという別題で上演され、改訂された原典版は1835年12月30日にミラノで上演された。ドニゼッティの代表作の一つとされ、とくにスコットランドの女王メアリーとイギリスの女王エリザベス1の対決場面が劇的かつ音楽的なハイライトとして知られるが、史実では両女王が顔を合わせることはなかった。
あらすじ(概略)
物語は16世紀のイングランドとスコットランドの政治的・宗教的対立を背景に、スコットランド女王メアリーの投獄と審問、エリザベスとの権力闘争、そして最終的なメアリーの処刑へと至る。ドラマは個人的感情と国家的責務が衝突する場面、友情と裏切り、復讐と赦しといったテーマを中心に展開する。オペラ独自の創作や圧縮が加えられており、舞台上での“女王同士の対面”は史実に基づくものではないが、劇的効果として強烈な印象を残す。
制作と初演の経緯
ドニゼッティはシラーの戯曲の強い構成力と登場人物の対立に惹かれ、バルダーリと組んで台本化した。しかし当時のイタリアでは現役の君主や国家を扱う劇に対して検閲が厳しく、ナポリ初演ではタイトルや登場人物の扱いに変更が加えられた。ミラノでの上演では多くの改訂が行われ、現在上演される版は主にミラノ版(原典版)を基にしている。作曲当初から幾度かの改訂がなされ、複数の版(ナポリ版、ミラノ版、後世の復元版)が存在するため、上演の際にはどの版を採るかが興味深い論点となる。
音楽的特徴と見どころ
- ベルカント技法:ドニゼッティらしい美しい旋律線と技巧的なアリア、色彩豊かなオーケストレーションが特徴。歌手には高度な呼吸術と装飾音の処理が求められる。
- 劇的な二重唱・対決場面:メアリーとエリザベスの“対決”は音楽的にも頂点で、対位法的なやり取りや感情の対立を音で表現する場面になっている。舞台効果としても最も印象的な場面の一つである。
- 多彩なアンサンブル:三幕構成の中で、独唱だけでなく重唱・合唱の扱いが巧みで、物語の進行に合わせて音楽が緊張を高める。
- 終幕の処刑場面:悲劇のクライマックスとして、静謐さと凄絶さを兼ね備えた音響表現が用いられ、観客に強い余韻を残す。
版と上演史
初演時の検閲による改訂とその後の再構成のため、演奏史上は複数の版が存在する。19世紀後半から20世紀初頭まで上演は減少したが、20世紀半ば以降のベルカント復興運動の中で復活を遂げた。特に中・後期の復活上演では、史料に基づく復元版や作曲者の意図に近づける校訂版が用いられることが多い。
代表的な歌手と評価
20世紀以降、名ソプラノやメゾソプラノたちがこの役柄を歌い、作品は再評価された。マリア・カラスをはじめ、ジョーン・サザーランド、ベヴァリー・シルズ、モンセラート・カバリェなど、技巧と表現力を兼ね備えた歌手による名演が数多く記録されている。現代でも声楽家の力量を問うレパートリーとして定着している。
主なテーマと今日的意義
- 権力と個人の対立、国家と良心の葛藤を描く普遍的なドラマ。
- 史実と創作のはざまで生まれた劇的演出が、歴史認識や女性像についての議論を促す。
- ベルカントの美学とロマン主義的な感情表現が融合した作品として、歌唱表現の発展史を理解するうえで重要。
総じて、ドニゼッティの『マリア・スチュアルダ』は技巧的な歌唱と強烈なドラマ性を併せ持つ名作オペラであり、多様な版・解釈が存在することから上演ごとに新たな発見がある作品である。
主な役割と声の種類
- マリア・ストゥアルダ - ソプラノ
- エリザベッタ - ソプラノまたはメゾソプラノ
- レスター - テノール
- タルボット - ベース
- セシル - バリトン
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