マシュー・シェパード法とは|2009年成立の連邦ヘイトクライム防止法

マシュー・シェパード法:2009年成立の連邦ヘイトクライム防止法、性的指向・性同一性・障害を保護しトランス支援の法的基盤を確立。

著者: Leandro Alegsa

マシュー・シェパード法(正式名称:Matthew Shepard and James Byrd, Jr. Hate Crimes Prevention Act)は、2009年10月22日に成立し、10月28日にバラク・オバマ大統領によって署名された議会法である。この法律は、1969年に制定された連邦憎悪犯罪法に、被害者の性別性的指向性同一性障害を理由とする犯罪を追加するものです。

同法は、トランスジェンダーの人々に法的保護を与える初めての連邦法です。

また、同法案は連邦政府がヘイトクライムの調査・起訴に介入するための範囲を拡大し、州や地方自治体が適切に対処しない場合に司法省が訴追を行える法的根拠や、ヘイトクライムの記録・研修・支援のための資金援助を行う仕組みを整えた点が特徴です。

主な内容とポイント

  • 保護対象の拡大:被害者の「人種、肌の色、宗教、出身国、性別、性的指向、性同一性(gender identity)、および障害」を理由に行われた暴力行為等を連邦の憎悪犯罪として扱えるようになりました。ここには被害者が実際にそうである場合だけでなく、加害者がそのように「認識した(perceived)」場合も含まれます。
  • 連邦の介入権限:従来の連邦法は「連邦の保護される活動(投票など)」に関連する場合に限られることが多かったのに対し、同法はより広い範囲で連邦が捜査・起訴できる根拠を与えます。これにより、州が起訴しない・できない場合でも連邦が訴追する選択肢が生じます。
  • 刑罰の体系:犯罪の性質や結果に応じて罰則が定められており、重大な結果(死亡など)が生じた場合には重罰(最長終身刑や特定の場合には死刑の適用もあり得る)を科す余地があります。傷害に対する有期刑や罰金が定められている場合もあります。
  • 報告・支援の強化:司法省や連邦捜査局(FBI)による統計の収集、州・地方向けの研修・資金援助、被害者支援に関する支援策が導入され、ヘイトクライムへの対応力を高める仕組みが整えられました。

背景と成立までの経緯

法名は1998年に起きた二つの衝撃的な事件、同性愛者の大学生マシュー・シェパード(Matthew Shepard)の殺害事件と、アフリカ系アメリカ人ジェームズ・バード・ジュニア(James Byrd, Jr.)の残虐な殺害事件に由来します。これらの事件は米国内で憎悪犯罪に対する関心を高め、法制度の強化を求める声が高まりました。長年にわたって複数回、同様の法案が議会で提案されましたが、成立は2009年まで持ち越され、オバマ政権下で成立しました。

運用上の注意点

  • 動機の立証が必要:ヘイトクライムとして立件するには、被害者が特定の保護対象であることを理由(動機)として犯行が行われたことを検察側が立証する必要があります。
  • 州法との関係:多くの州にも独自のヘイトクライム法があり、通常は州での起訴が優先されます。連邦は補完的役割を果たし、必要に応じて介入しますが、自動的に州刑罰を増加させるものではありません。
  • 被害者・目撃者の対応:ヘイトクライムが疑われる事件では、まず地元警察へ通報することが重要です。州が対応しない場合や重大事案では司法省(Civil Rights Division)や地元の連邦検事局に相談・通報する選択肢があります。

導入後の影響と評価

成立以降、当局はこの法律に基づいて複数の事件を捜査・起訴してきました。特にLGBTQ+コミュニティや障害者コミュニティに対する保護が強化された点は評価される一方で、表現の自由や州権限を巡る懸念を示す声もありました。実務上は、司法省と州・地方当局が協力して事件を記録・対応する仕組みを整えることが課題となっています。

批判と議論

  • 表現の自由との関係:一部では「思想・言論の自由を不当に制約するのではないか」との懸念が示されましたが、合衆国の裁判所は暴力行為や脅迫を規制する権限と表現の自由の保護の均衡を図る判断を行っています。
  • 連邦化(federalization)の問題:犯罪事案の処理を連邦が関与することで州の裁量を損なうとの批判もあり、どの段階で連邦が介入するべきかは実務的・政治的な議論の対象となっています。

まとめ(意義)

マシュー・シェパード法は、性的指向や性同一性といったこれまで連邦の憎悪犯罪法で明確に保護されてこなかったカテゴリーを加えることで、脆弱な立場にある人々への法的保護を強化した点で大きな意義を持ちます。同時に、適用の際には動機の立証や州・連邦の調整など実務上の課題が残っており、継続的な運用とデータ整備、教育・研修が重要とされています。



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