メティスは、ギリシャ神話に登場する知恵の女神で、タイタンの一人です。父母はオセアヌスとテティスの娘とされ、神話ではしばしば深い知恵と機略(含蓄のある助言)を象徴します。古典ではまた、ゼウスの最初の正妻・盟友として語られ、アテナの母でもあるとされます。
神話の代表的な筋では、メティスは将来生まれる子が父よりも強力になりうるという予言があるため、ゼウスによって飲み込まれます。ゼウスはメティスの中に彼女の知恵を取り込み、その結果、メティスの知恵はゼウスの内に宿ることになったとされます。このエピソードは、知恵(メティス)がただ独立して存在するのではなく、統治者の判断や策略の一部となることを示す神話的説明と解釈されます。
その後、メティスの子であるアテナがゼウスの頭から生まれるという有名な場面が伝わります。伝承によって細部は異なりますが、一般に次のように語られます:メティスは既に妊娠していたためゼウスの中にいたが、やがてゼウスの頭がひどく痛み、鎚(ハンマー)の音がしたとされます。ゼウスの頭の苦痛を和らげるために、プロメテウス、ヘパイストス、ヘルメス、または別の使者(伝承によってはパラエモンの名が挙がることもある)が介入し、ミノアの斧でその頭を割ったところ、完全に成長した姿で防具に身を包んだアテナが誕生した、というものです。一般的にはヘパイストス(鍛冶の神)が斧や槌を使って頭を裂き、そこから産まれたとされる版がよく知られています。
メティス(古ギリシャ語: μήτις)という語自体は「機知」「策略」「慎重な判断」を意味し、ホメーロスや後の文学でも重要な概念として扱われます。英雄オデュッセウスの機略(メティス)など、個人の知恵・機転を表す語としても使われ、神格メティスはこの抽象的な能力を擬人化した存在とも見なされます。神話の背景には、知恵が単に学識ではなく、状況に応じて巧みに振る舞う能力であるという古代ギリシャの価値観が反映されています。
また、天文学の分野でもメティスの名は受け継がれており、メティスの名を冠した月(木星の衛星)が存在します。これは木星に最も近い小さな衛星の一つで、1979年にボイジャーの観測画像などをもとに発見されました。形は不規則で非常に小さく、木星のリングに近い軌道を回っているため、リング物質との関係や潮汐作用の研究対象にもなっています。
メティスは美術や文学ではしばしば直接的に描かれることは少ないものの、アテナの誕生物語を通じて古代の智慧観や支配の正当化を示す象徴として重要です。ゼウスの内に統合された「メティス」は、力(ゼウス)と知恵(メティス)が結び付くことで秩序が維持されるという神話的メッセージを伝えています。