MIPSアーキテクチャとは?RISCの概要・歴史・用途をわかりやすく解説
MIPSアーキテクチャは、1981年にスタンフォード大学で開発されたコンピュータ用の命令セット(ISA)です。名前はMicroprocessor without Interlocked Pipeline Stagesの頭文字をとっていた(MIPS)に由来し、設計思想は主にRISC(簡潔な命令セットコンピュータ)に基づいています。典型的なMIPS実装は、命令が固定長であること、ロード/ストア方式のメモリアクセスを採用すること、そしてシンプルなパイプライン構造を持つことが特徴です。当初は32ビットのバスを使っていたものが多く、1991年以降は64ビット実装(MIPS64など)も普及しました。
主な特徴
- 固定長命令(従来は32ビット):命令の長さが一定なため、命令フェッチやデコードが単純になり、パイプライン化に有利です。
- ロード/ストアアーキテクチャ:メモリからの読み書きは専用命令で行い、演算命令はレジスタ同士で実行します。
- レジスタ中心設計:汎用レジスタを多く用意し、頻繁なメモリアクセスを避けることで性能向上を図ります(古典的なMIPSでは32本の汎用レジスタ)。
- パイプライン化:典型的には5段(IF/ID/EX/MEM/WB)程度のパイプラインを採用。命令レベルの並列処理がしやすい構造です。
- インターロックを最小化:ハードウェアによる自動停止(インターロック)を可能な限り減らし、コンパイラ側で命令スケジューリングを行う設計思想があります(名前にある “without Interlocked Pipeline Stages” が示す点)。
- 拡張性:整数・浮動小数点演算、SIMD風の拡張、64ビット化など、用途に応じた拡張が行われてきました。
動作のポイント(わかりやすく)
パイプラインは流水線のように命令を分割して並列実行しますが、ある命令の結果を次の命令が即座に必要とする場合などには“ハザード”が発生します。MIPS設計では、ハードウェアでの自動ストール(インターロック)をなるべく減らし、コンパイラが命令の順序を入れ替えてハザードを回避することで高速化を図るというアプローチを採ります。さらに、フォワーディング(データ転送)やパイプラインバブル(意図的な待ち)などで実行の整合性を保ちます。
歴史と普及
MIPSの基礎は1980年代にスタンフォードで生まれ、その後商用化され、多くのベンダーに採用されました。1990年代には、MIPS実装が生産されたRISCマイクロプロセッサの中で大きなシェアを占め、当時は「生産されたRISCマイクロプロセッサの3台に1台がMIPS実装である」と推定されるほど広く使われました。主な採用先には、Digital Equipment Corporation、NEC、Pyramid Technology、Siemens Nixdorf、Tandem Computersなどがあり、さらにSGIのワークステーションでも長く採用されていました(SGI製品では2006年後半まで多くの製品にMIPSが使われていました)。
用途と採用例
MIPSは組み込み用途で特に強みを発揮しました。2015年時点では、MIPSの実装は主に次のような分野で見られます:
- Windows CEを搭載するデバイス
- ルータやネットワーク機器
- 家庭用ゲートウェイなどの組み込みネットワーク機器
- ソニー・プレイステーション、プレイステーション2、プレイステーション・ポータブルなどのビデオゲーム機など(ゲーム機の主要CPUとして採用された例)
- 各種の組み込みシステム全般(低消費電力で高効率なSoCに組み込まれるケース)
このほか、過去には汎用ワークステーションやサーバ分野でも用いられましたが、携帯機器などではARMアーキテクチャが主流となり、用途がよりニッチな組み込み分野やネットワーク機器にシフトしていきました。
派生と世代
MIPSは単一の仕様ではなく、時代と用途に合わせて命令セットや拡張が追加されてきました。代表的な世代としてはMIPS Iから始まり、MIPS II、MIPS III(64ビット対応のMIPS64へ)、さらに後のバリエーションや拡張(浮動小数点、SIMD風拡張、アプリケーション固有の拡張など)があります。商用ではMIPS32、MIPS64といったプロファイル名で区別されることが多く、組み込み向けにライセンス提供されるコアの形でも広がりました。
利点と注意点
- 利点:回路設計が比較的単純で高クロック化しやすく、コンパイラ技術と相性が良い。固定長命令とロード/ストア設計によりデコードやパイプラインの効率が高い。
- 注意点:ハードに依存する自動インターロックを減らす設計のため、コンパイラの役割が大きい。アーキテクチャ自体はシンプルだが、実効性能はマイクロアーキテクチャの実装や最適化に強く依存する。
まとめると、MIPSアーキテクチャはRISCの基本原理を具現化した設計であり、特に組み込み機器やネットワーク機器、かつてはワークステーションやゲーム機で広く採用されました。固定長命令やロード/ストア方式、パイプライン最適化という特徴により、設計の単純さと高効率を両立させた点が歴史的な強みです。
質問と回答
Q:MIPSアーキテクチャとは何ですか?
A:MIPSアーキテクチャとは、1981年にスタンフォード大学で開発されたコンピュータ用の命令セットです。
Q:MIPSとは何の略ですか?
A: MIPSは当初、Microprocessor without Interlocked Pipeline Stagesの頭文字をとったものでした。
Q:MIPSアーキテクチャにおけるRISCとは何ですか?
A:MIPSアーキテクチャの大半はRISCで行われています。RISCとは、Reduced Instruction Set Computingの略です。
Q:MIPSアーキテクチャでRISCを使うメリットは何ですか?
A:完全なRISCアーキテクチャでは、すべてのコマンドの長さが同じになります。これにより、マイクロチップの設計が簡素化され、高速なクロックサイクルを使用することができます。
Q:MIPSアーキテクチャの初期バージョンで使用されていたバスアーキテクチャは何ですか?
A:当初は、32ビットバスを使用していました。
Q:MIPSアーキテクチャで64ビットアーキテクチャが採用されたのはいつですか?
A:1991年から64ビットアーキテクチャが使われるようになりました。
Q:MIPSの実装は主にどのようなシステムで使用されていますか?
A: 2015年現在、MIPSの実装は、Windows CE機器、ルーター、住宅用ゲートウェイ、ソニーのプレイステーション、プレイステーション2、プレイステーション・ポータブルなどのビデオゲーム機などの組み込みシステムで主に使用されています。