道徳的推論とは?定義・発達段階をコールバーグ/トゥリエルで解説
道徳的推論とは?定義と発達段階をコールバーグ・トゥリエルで初心者にも分かりやすく解説。理論の違いと教育・実例まで図解で理解
道徳的推論は、心理学や道徳哲学の分野で研究されているテーマです。人が道徳的な問題や課題、疑問についてどのように考えるか(理由付けや判断の仕方)を扱います。代表的な研究者には、ローレンス・コールバーグ(Lawrence Kohlberg)とエリオット・トゥリエル(Elliot Turiel)がいます。コールバーグは、道徳的理解が年齢や認知発達とともに段階的に成熟すると主張し、主に「3つの大きな水準(6つの段階)」で説明しました。一方、トゥリエルは道徳的判断が年を重ねるごとに一方向に進むのではなく、同時並行的に発達する複数の領域(ドメイン)があると考えました。
道徳哲学(倫理学)は、哲学の一分野で、価値や善悪、義務、責任などの概念を分析し、どの行為が正しいのか、何に基づいて判断すべきかを検討します。道徳的推論の心理学的研究は、こうした哲学的問いに対する人々の実際の思考過程や発達パターンを明らかにし、教育や法制度、育児実践などへの示唆を与えます。
コールバーグの理論(道徳発達の段階)
コールバーグは、被験者に道徳ジレンマ(有名な「ハインツのジレンマ」など)を提示し、どのように判断するか、なぜそう判断したかを詳しく聞き取る方法で研究しました。その結果、道徳的推論は次の3つの大きな水準(各水準に2つずつの段階)を経て発達すると提案しました。
- 前慣習的水準(Preconventional)
- 第1段階:罰と服従(行為は罰されるかどうかで判断)
- 第2段階:利益交換・道具的相互主義(自分の利益や他者との取引で判断)
- 慣習的水準(Conventional)
- 第3段階:良い人/良い子(他者の期待や人間関係の調和を重視)
- 第4段階:法と秩序(社会の規則や権威を重視)
- 後慣習的水準(Postconventional/原理的水準)
- 第5段階:社会契約(社会的合意や個人の権利を重視)
- 第6段階:普遍的な道徳原理(正義や人間の尊厳といった普遍原理に基づく判断)
各段階は年齢とともに一方的に進む「成熟過程」として説明されますが、すべての人が必ず最上位段階に到達するわけではありません。コールバーグの理論は道徳的理由付けの質を体系的に示した点で大きな影響を与えましたが、文化差や実際の行動との乖離(推論と行動は必ずしも一致しない)といった批判も受けています。
トゥリエルのドメイン論(領域理論)
エリオット・トゥリエルは、子どもが道徳的判断をどのように区別するかに注目し、判断は少なくとも次の3つの領域(ドメイン)に分かれると提案しました。
- 道徳的領域(Moral domain):他者の権利や公平さ、身体的危害の回避など、普遍的な正誤に関わる問題。
- 社会慣習的領域(Social-conventional domain):挨拶や服装、教室のルールなど、社会的合意や状況依存のルールに関する問題。
- 個人的領域(Personal domain):個人の好みや自律に関する問題(例:どの友達と遊ぶか、髪型など)。
トゥリエルの研究では、子どもたちはこれらの領域を区別して判断しており、例えば「他人を叩くこと」は道徳的違反として扱われる一方で、「教室で帽子をかぶること」は社会慣習的規範の問題として扱われる、という具合です。トゥリエルは領域ごとに発達の仕方や基準が異なると主張し、単一の段階モデルでは説明しきれない複雑さを示しました。
研究方法と主要な発見
- 主な手法:道徳ジレンマ(物語)を用いた半構造化面接、質問紙、長期追跡(縦断)研究、実験的課題など。
- 発見例:幼児期から道徳的敏感さ(苦痛や不公平さへの反応)は見られ、年齢とともに理由付けの抽象度や普遍性が増す。文化や社会的経験(家族、学校、同輩関係)が判断の基準に影響する。
教育・実践への示唆
- 道徳教育では、単に「ルールを守らせる」だけでなく、なぜそれが重要なのかを対話的に説明し、複数の視点を考慮する練習を促すことが有効です。
- トゥリエルの見地からは、道徳的問題と社会慣習的問題を区別させる教育(何が他者の権利や安全に関わるのかを明確にする)も重要です。
- 倫理的判断と実行(行動)は別次元であるため、感情の理解や共感の育成、行動を促す環境づくり(ロールモデル、具体的な行動指導)も必要です。
批判と補完的理論
- 文化や価値観の多様性:コールバーグ理論は西洋中心的だという批判があり、普遍的な段階進行を全文化に当てはめることへの慎重さが求められます。
- 行動との乖離:高い道徳的推論を示しても、実際の行動が一致しないことがある(状況や感情の影響)。この点を補う理論として、ジョナサン・ハイトの「社会直感主義モデル(感情の役割重視)」などがあります。
- ケア倫理やジェンダー批判:キャロル・ギリガンらは、道徳発達の基準が男性中心の正義重視になりがちで、関係性や配慮を重視する視点が欠けていると指摘しました。
まとめ
道徳的推論の研究は、どのように人が「正しい」「間違っている」と判断するかを理解するうえで重要です。コールバーグは発達段階を提示して判断の質的変化を示し、トゥリエルは判断が複数の領域に分かれることを示しました。現在では、これらの理論を踏まえつつ、文化差、感情の影響、実際の行動との関係などを考慮した総合的な理解が求められています。教育や育児、政策設計においては、対話を通した理由付けの促進、共感の育成、そしてルールの意味を明確にすることが有効だと考えられます。
質問と回答
Q: 道徳的推論とは何ですか?
A:道徳的推論とは、人が道徳的な問題、問題、疑問についてどのように考えるかを研究することです。
Q: 道徳的推論を研究している心理学者は誰ですか?
A: 道徳的推論を研究した心理学者には、ローレンス・コールバーグとエリオット・トゥリエルがいます。
Q: ローレンス・コールバーグは、道徳的理解についてどのように言っていますか?
A: ローレンス・コールバーグは、道徳的理解は、人が年をとるにつれて、主に3つの段階で発達すると言いました。
Q: エリオット・トゥリエルは、道徳的理解についてどのように言っていましたか?
A: エリオット・トゥリエルは、道徳的理解には3つの領域があり、それは人が年をとるにつれて同時に発達すると言いました。
Q: 道徳哲学や倫理学とは何ですか?
A: 道徳哲学や倫理学は、哲学の主要な一分野です。価値や品質に関する学問です。正しいこと、間違っていること、善、悪、責任などの概念の分析と利用を扱います。
Q: 道徳哲学や倫理学はどのようなテーマを扱うのですか?
A: 道徳哲学や倫理学は、正しい、間違っている、善、悪、責任などの概念の分析と使用を扱います。
Q: 道徳哲学や倫理学の研究は、道徳的推論とどのように関係していますか?
A: 道徳哲学や倫理学の研究は、道徳的な問題を理解し分析するための枠組みを提供し、それが道徳的な推論能力に情報を与え、強化することができます。
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