モロッコのリアド:中庭を持つ伝統住宅の建築と歴史ガイド
モロッコのリアドの建築美と歴史を写真・地図で解説する完全ガイド — 中庭の設計、素材、文化背景と見学・保存のポイントを詳述。
モロッコのリアドは、庭や中庭を持つモロッコの伝統的な家屋や宮殿である。リアドは通常、噴水のあるアンダルシア風の中庭を囲むように2階建て以上になっており、外側に面した大きな窓を持たない内向きの造りが特徴だ。リアドは、商人や廷臣など裕福な市民が住む都市型住居だった。名称は、アラビア語で「庭」を意味する「リャド(riyād)」に由来する。
建築的特徴
リアドは外部からの視線を遮ることでプライバシーを守り、暑い気候に対応するための工夫が随所にある。典型的な要素は次のとおりである。
- 中庭(パティオ): 建物の中心に位置し、噴水や小さな庭、植栽が配される。水は気化熱で周囲の空気を冷やし、緑は日陰と湿度をもたらす。
- 内向き配置: 外壁に面する窓が少なく、開口部は中庭に向くことで通風と採光を確保する。
- 地階や低層の設計: 地元の石、漆喰、木材、タイル(ゼリージュ)などの伝統素材が用いられる。薄い屋根や高い天井で熱を逃がす工夫も行われる。
- 装飾: カラフルなモザイク(ゼリージュ)、精緻な木彫り(シュシェア)、漆喰彫刻(タデリクト)などイスラム美術の伝統が反映される。
歴史的背景と影響
リアドの起源はイスラム文化と地中海地域の住宅様式が融合したもので、特にアンダルシア(イベリア半島のイスラム圏)からの影響が強い。中世から近世にかけて、モロッコの都市(フェズ、マラケシュ、メクネスなど)の富裕層が静穏で涼しい居住空間としてリアドを建てた。リアドは単なる住宅にとどまらず、家族と客人を迎える社交の場、宗教・社会的儀礼の場としての役割も果たした。
社会的・文化的役割
リアドは家族の私的空間を重視するイスラム文化に適応した住宅形態である。中庭は子どもの遊び場、洗濯や食事準備、季節ごとの行事などの日常生活の中心だった。また、多くのリアドは長屋式ではなく複数の世代が一緒に住むための部屋配置や、使用人のための簡素な区画を備えていた。
観光と保存・再活用
20世紀後半から、古いリアドの多くが放置されたり改変されたりしたが、近年は復元・保存の動きが進んでいる。伝統的な技術を用いた修復により、宿泊施設(リアドを改装したゲストハウス)や文化施設、レストランとして再活用され、市内観光の人気スポットになっている。ただし、観光化は住宅地としての生活や地域社会に影響を与えるため、持続可能な保存が求められている。
訪問時のマナー
- 住宅として現役のリアドを訪れる際は、事前に許可を得る。宿泊客でない場合、勝手に敷地に入らない。
- 写真撮影は所有者または管理者の指示に従う。居住者のプライバシーを尊重する。
- 服装や振る舞いは地域の習慣に配慮する。特に宗教行事や家族の集まりがある場合は控えめな態度を心がける。
代表的な街とリアドの例
フェズやマラケシュの旧市街(メディナ)には多数の歴史的リアドが集積している。これらは迷路のような路地に面しており、路地からは外観がほとんど見えないため、内部に入ると驚くような庭や装飾空間が現れることが多い。近年は、保存状態の良いリアドがユネスコの世界遺産区域内に含まれることもあり、文化資産としての評価が高まっている。
まとめ
リアドは気候、文化、社会構造が反映されたモロッコ独自の住宅形態であり、建築・装飾の美しさだけでなく、都市生活の中でのプライバシー保護や快適性の工夫が詰まっている。保存と適切な再利用を通じて、地域の歴史と生活文化を伝えていくことが重要である。
関連ページ
- モロッコの建築
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