ニカーとは イスラム法における結婚の定義 同意とニカ・ムタの解説

ニカー(نكاح)はイスラム法における婚姻の法的概念で、男女が婚姻契約(婚姻の申し込みと承諾:ijab と kabul)を交わすことで成立します。伝統的には、一度成立した通常の婚姻は離婚などの法的手続きを経ない限り終わらないと理解されます。さらに、イスラム法体系の中には期間を限定した婚姻を指す、いわゆるニカ・ムタと(mutʿah、临时結婚)と呼ばれる形態があり、これは主にシーア派(特に十二イマーム派)で容認されてきた一方で、スンニ派の主流学説はこれを認めず、しばしば売春類似の関係であると批判されます。とはいえ、歴史の中で宗派や地域によって解釈や実務に幅があることも事実です。結婚の基本的な意義は、法的・社会的・宗教的な共同体としての家族形成にあります。

ニカーの主な要件

  • 当事者の合意(同意):男性側の申し込み(ijab)と女性側の承諾(kabul)が必要です。両者の自由な意思が重視され、強制は認められません。
  • マフル(mahr, 嫁入り持参金):夫が妻に与える約束された財産で、婚姻契約の一要素とされます。
  • 目撃者(証人):多くの法学派は婚姻契約には成人の証人が立ち会うことを求めます(伝統的に男性2名などの規定がある学派もあります)。証人の目的は婚姻の成立を公証し、紛争を避けることです。
  • 保護者(ワリー)に関する規定:一部の法学派では未婚の女性に関して父や男性保護者(wali)の同意が求められることがあります。解釈は学派や地域で異なります。
  • 法的手続きと公表:婚姻の成立後に公表や登録を行うことが望ましく、現代の多くの国では婚姻登録が法律上の要件になっています。

ニカ・ムタ(臨時婚)について

ニカ・ムタ(mutʿah)は契約で婚姻期間を限定する形式で、期間を定めて契約された結婚です。歴史的には初期イスラム社会に起源を持ち、現代のシーア派法では一定条件下で容認されています。一方で、スンニ派の主流見解はこの制度を否定しており、実務上は許されないとされます。スンニ派側からは「一時的な肉体関係に近く、売春を合法化する恐れがある」との批判がなされることがあり、この点が両派の主要な相違点の一つです。とはいえ、実際の運用や社会的評価は時代や地域によって大きく異なります。売春を合法化するものだという批判は、こうした倫理的・社会的議論を反映しています。

同意と証人、性行為に関する誤解の訂正

元の記述にある「夫と妻の両方が目撃者を交えて性交に同意するかどうか3回尋ねられ、後で誰もレイプだと主張できないようにします」という表現は誤解を招きます。実際のイスラム法上の婚姻成立要件は「婚姻契約における合意」であり、婚姻が成立したからといって以後の性関係について同意確認を三回行うといった普遍的な儀礼が定められているわけではありません。文化や地域によっては結婚の際に当事者の意思が明確であることを確認する慣習(たとえば複数回の確認)があることはありますが、それをすべてのイスラム法実務の必須規則と見るのは誤りです。

また、婚姻の有無に関わらず、強制的な性行為は現代の多くの国の刑法で犯罪とされます。イスラム法内でも強制や暴力は倫理的・法的に問題視され、現代の法制度では「結婚しているからレイプの訴えはできない」と単純化することはできません。法の適用は国と時代によって異なるため、具体的な事例では現行法や裁判実務を確認する必要があります。

権利と義務

  • 相互の権利:夫婦は互いに扶養・配慮・尊重する義務を負うとされます。妻には一定の生活保障や名誉の保護が求められます。
  • 相互の義務:夫は妻に対する扶養義務(生活費や住居の提供など)を負い、妻には家庭内の役割や共同生活への協力が期待されることが伝統的には述べられてきましたが、実際の役割分担は文化や個人の合意で多様です。
  • 離婚とその手続き:婚姻は離婚(talaq、khula など)によって解消されます。離婚に関する規定も学派や国ごとに差があります。

現代的な議論と法制度

現代の多くのイスラム諸国では、伝統的なイスラム法規定を基盤にしつつも、婚姻登録制度や女性の権利保護、家族法の近代化が進められています。ニカ・ムタの扱いやワリー(保護者)の役割、婚姻後の財産権・親権の規定などは国ごとに大きく異なり、宗教的見解と現行法が折り合う形で運用されています。

まとめ

ニカーはイスラム法における正式な婚姻契約で、当事者の合意・マフル・証人などの要件が重視されます。ニカ・ムタと(臨時婚)は宗派間で見解が分かれる重要な論点であり、スンニ派とシーア派の間で扱いが異なっています。婚姻と性的合意、暴力の問題は宗教的規定だけでなく各国の現行法や社会的慣習とも深く関わるため、具体的な事案では地域ごとの法制度や判例を参照することが必要です。

結婚証明書にサインする花嫁(パキスタン)。Zoom
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