オルピメント(硫化砒素 As2S3)—性質・歴史・顔料としての用途と有毒性

オルピメント(硫化砒素 As2S3)の性質・歴史・顔料としての用途と有毒性を詳解。色彩・化学反応・美術と産業での利用リスク、安全対策まで分かりやすく紹介。

著者: Leandro Alegsa

オルピメントは、鉱物の一種で、化学組成は As2 S 3(硫化砒素)です。色は鮮やかなオレンジ色から黄色で、光沢は樹脂光沢~半金属光沢を示すことが多く、しばしば薄片状や繊維状、塊状で産出します。モース硬度は1.5~2と非常に軟らかく、扱いに注意が必要です。比重は 3.46 前後で、加熱すると約300℃で融解し、高温では 三酸化ヒ素に酸化されることがあります。空気中での酸化により表面に三酸化砒素(As2O3)の薄い層が生じ、これが有毒性の一因となります。

性質

  • 結晶系:通常は単斜晶系(単斜)で、薄片状や絹糸状の集合体として見られることが多い。
  • 色と光沢:鮮やかな黄色〜橙色。光沢は樹脂光沢を示す。
  • 物理性:脆く、簡単に欠けやすい。加熱や酸化により分解して有毒な酸化物を生成する。
  • 化学性:水にはほとんど溶けないが、酸化や強い酸・酸化剤によって分解しやすい。

産出と鉱物学的環境

オルピメントは熱水鉱脈や低温の硫化鉱床、温泉や火山の噴気孔周辺などの環境で生成します。しばしば同じく砒素硫化鉱物であるリアルガー(AsS)や、スズや鉛の硫化鉱物、天然のヒ素と伴出することがあります。世界各地で産出例があり、産地や鉱床条件によって結晶の形態や色調に差が出ます。

歴史と顔料としての用途

オルピメントは古代から用いられてきた黄色顔料の一つで、その鮮やかな色から壁画、写本、絵画などに広く使われました。天然の明るい黄色を与えるために重宝され、東洋・西洋を問わず様々な文化圏で顔料として採用されました。しかし、化学的に不安定な面や毒性の問題、さらに後に合成顔料(カドミウムイエローなど)や有機系顔料が登場したことで、次第に使われなくなりました。歴史的文献や美術作品を保存・修復する際には、オルピメントを含む箇所の識別と適切な取扱いが重要です。

また、工業的・実用的用途としては、皮革から毛を取り除く(脱毛)処理のように、砒素化合物の性質を利用した用途が記録されています。ただしこれらの用途も安全性の観点から現代では制限されることが多いです。

有毒性と安全対策

オルピメントは砒素を主成分とするため有毒です。表面の酸化や加熱で三酸化砒素が生じると、その蒸気や粉じんは吸入や経口摂取で深刻な中毒を引き起こします。皮膚に触れることで即座に強い毒性を示すわけではないものの、長期暴露や傷口からの吸収は危険です。博物館や研究室での取扱い、廃棄時には以下の点に注意してください。

  • 粉末や粉じんの発生を避ける(必要時は局所排気装置やドラフトを使用)。
  • 手袋、保護眼鏡、必要に応じて防護用マスクを着用する。
  • 加熱や研磨を行わない。加熱は有毒蒸気の発生を招く。
  • 保管は密閉容器に入れ、酸や強い酸化剤から離して保管する。
  • 廃棄は地域の有害廃棄物規則に従う。

保存と修復の注意点

美術作品中のオルピメントは、他の鉱物や顔料と化学反応を起こして変色・劣化することがあります。修復や分析を行う際は非破壊的手法で存在を確認し、必要ならば専門のコンサベーターと連携して安全対策を講じながら作業してください。

総じて、オルピメントは美しい色を持つ歴史的に重要な鉱物・顔料ですが、その毒性と化学的不安定性を十分に理解した上で、適切な注意を払って扱う必要があります。

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