ランダムウォーク仮説とは:マクロ経済学における消費行動と合理的期待(定義)
ランダムウォーク仮説の定義と消費行動・合理的期待の関係をわかりやすく解説、マクロ経済学の実務と政策への示唆を詳述。
ランダムウォーク仮説は、ロバート・E・ホールが新古典派の消費関数として提唱したもので、マクロ経済学における合理的期待の応用例です。消費者は効用最大化を目指して利用可能なすべての情報を合理的に使い、現在の消費には既知の情報がすべて反映されていると考えられます。その結果、将来の消費の合理的期待値は現在の消費に等しく、消費の変化は予測不可能なショック(新情報)によってのみ生じる、すなわち「ランダムに歩く(random walk)」とされます。
理論の骨子
ランダムウォーク仮説は、以下の前提のもとで導かれます:
- 合理的期待:消費者は利用可能なすべての情報を使って将来を予測し、その期待は誤りのないものとみなされる。
- 効用最大化:各期での消費は、将来の効用を考慮した最適な選択の結果である。
- 完全な資本市場(借入・貯蓄の自由)や、時間弾力性のある割引因子など、標準的な新古典派の仮定。
数学的表現(簡潔なスケッチ)
ホールの基本的な結論は、消費 C に対して次が成り立つというものです:
E_t[C_{t+1}] = C_t
ここで E_t は時点 t における期待値です。これを書くと、消費の動きは
C_{t+1} = C_t + ε_{t+1}
のように表され、ε_{t+1} は時点 t で予測できないショック(平均ゼロの誤差項)を表します。確率過程の観点では、消費はマルチンゲール(あるいはランダムウォーク)です。
恒久所得仮説と合理的期待との関係
フリードマンの恒久所得仮説は、消費は一時的な所得よりも「恒久的(期待される長期平均)所得」によって主に決定されると述べます。ランダムウォーク仮説はこれを合理的期待と最適化行動の下で形式化し、消費は既知の情報で更新された恒久所得に一致するため、新たに得られる情報(予想外の恒久所得の変化)だけが消費を変化させると主張します。
実証的検証と批判
- ホール自身(1978)は消費データがランダムウォークに近いことを示す結果を得ており、以後多数の研究がこの仮説を検証してきました。
- 一方で、現実の消費データは必ずしも完全なランダムウォークと一致しません。代表的な反証要因としては以下が挙げられます:
- 流動性制約(信用制約)── 借入ができないために消費が所得変動に敏感になる。
- 予防的貯蓄(不確実性)や習慣形成(habit formation)── 消費の反応が滑らかでない場合がある。
- 有限の計画期間や不完全な市場情報── 実際の消費者はモデルの前提から乖離する。
- 測定誤差や所得の持続性(予測可能な所得ショック)── 所得の予測可能性が高ければ消費も予測可能に動く。
- Campbell・Mankiw らの研究は、所得の短期変動に対する消費の過度な感応(excess sensitivity)を報告し、ランダムウォーク仮説への異議を示しました。
政策的含意
ランダムウォーク仮説は政策効果に重要な示唆を与えます。要点は次の通りです:
- 消費は「予想される」政策変化よりも「予想外の」政策ショックに反応する。したがって、事前に繰り返し示された財政刺激(予見可能な減税など)は消費を大きく動かさない可能性がある。
- 逆に、予想外の所得の恒久的変化や、予想外に経済主体の期待が変わる政策は消費に大きく影響する。
- 流動性制約が存在する場合は、短期的な現金給付や一時的な所得支援が消費を刺激する効果を持つことがある(ランダムウォーク仮説の前提が崩れるため)。
まとめ(ポイント)
- ランダムウォーク仮説は、合理的期待と最適化行動から消費の変化は予測不能なショックによってのみ生じるとする理論である。
- 理論的には E_t[C_{t+1}] = C_t というマルチンゲール的性質を示すが、実証研究は部分的支持と多数の逸脱(流動性制約、習慣、予防的貯蓄など)を報告している。
- 政策的には「予想外の恒久的ショック」が消費を動かすため、政策のタイミング・予見性・信頼性が効果を左右する。
ランダムウォーク仮説は消費行動を理解するための重要な基準点を提供しますが、実際の政策分析やデータ解釈では、仮説の前提条件(市場の完全性や流動性の有無など)を慎重に検討する必要があります。
質問と回答
Q:ランダムウォーク仮説とは何ですか?
A:ランダムウォーク仮説とは、株式市場の価格がランダムに変化し、予測することができないとする金融理論です。
Q: ランダム・ウォーク仮説の開発者は誰ですか?
A: 1863年にフランスのブローカー、ジュール・ルノーが本を出版し、1900年にフランスの数学者ルイ・バシュリエが博士論文「投機の理論」(The Theory of Speculation)でこの概念について述べていることに端を発します。
Q: 1964年に株式市場の価格のランダムな性格について書いた本は誰ですか?
A: MITスローン・スクール・オブ・マネジメントのポール・クートナー教授が1964年に書いた「The Random Character of Stock Market Prices」という本があります。
Q:「ランダムウォーク」という言葉を流行らせた、1973年にバートン・マルキールによって書かれた本の名前は何ですか?
A: 1973年にバートン・マルキールが書いた本の名前は "A Random Walk Down Wall Street"(ウォール街のランダムウォーク)です。
Q:株価がランダムに動くという説が最初に提唱されたのはいつですか?
A: 株価がランダムに動くという理論は、モーリス・ケンドールが1953年に発表した論文「経済時系列の分析、パート1: 価格」です。
Q: ユージン・ファマの論文 "Random Walks In Stock Market Prices" はいつ発表されたのですか?
A: ユージン・ファマの論文 "Random Walks In Stock Market Prices "は1965年に出版されました。
Q: ランダム・ウォーク仮説は、株式市場価格について何を言っているのでしょうか?
A: ランダムウォーク仮説は、株式市場価格は予測できないランダムな方法で変化するというものです。
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