ティルチ(ロックフォート)のタユマナスワミ寺院:6世紀建立のシヴァ聖地と聖典
タユマナスワミ寺院は、インドのティルヒラッパッリ(通称ロックフォート)にある古いシヴァ寺院で、ロックフォート複合施設の麓に位置します。伝承では紀元6〜7世紀ごろ、パッラヴァ王マヘンドラヴァルマン1によって建立されたと伝えられ、岩を切り出して作られた初期の南インド寺院建築の一例と考えられています。主祭神シヴァは「タユマナスワミ(またはタユマナヴァル)」として崇拝され、リンガムの形で祀られています。シヴァの妃は「マトゥヴァル・クザランマイ」として表されます。
歴史と宗教的意義
タユマナスワミ寺院は、ナヤナール(ナーヤナール)と呼ばれるタミルのシヴァ聖人詩人たちによる『テヴァラム(Thevaram)』の賛歌に取り上げられた寺院の一つで、タミル・サイヴァ伝統における重要な聖地に数えられます。これによりパーダルペトラサラム(Paadal Petra Sthalam)という、詩歌で賛美された275の由緒あるシヴァ寺院の一つに分類されています。テヴァラムを作った詩人としては、サンバンダル、アッパール(ティルゥナヴッカルサーラル)、スンダラールなどが知られ、これらの詩がこの地の信仰を今に伝えています。
建築と境内構成
ロックフォート山の斜面には複数の祠が配され、全体として上下に連なる参拝動線が特徴です。麓にはガネーシャ神を祀る小祠があり、中腹にはタユマナスワミ寺院の主要な祠が、そして山頂にはウッチ・ピラヤル寺院(ウッチ・ピラーヤル、ウッチピラヤル)が置かれています。寺院本体は岩窟や切石を用いた素朴な造りで、後世の改修や増築によりナイヤカ様式やヴィジャヤナガラ以降の要素が混在する箇所も見られます。
祭礼・信仰行事
主要な祭礼にはマハー・シヴァラートリ(Maha Shivaratri)や毎日のプージャ(礼拝)があり、地域の信徒による巡礼が絶えません。テヴァラムに基づく讃歌の朗詠や、ナクシャトラ(星座)に合わせた特別行事など、伝統的な儀礼が今も継承されています。
見学とアクセス
ロックフォートはティルヒラッパッリ中心部に近く、徒歩で登ることができますが、山道には多くの石段があり、山頂までの上り下りは体力を要します。中腹と山頂の寺院を順に参拝することで、歴史層や眺望を楽しめます。寺院は日中に開いていることが多いですが、宗教行事や修復作業などで時間が変わる場合があるため、訪問前に現地で確認することをお勧めします。
保存と文化財的価値
タユマナスワミ寺院およびロックフォートの諸構造物は、考古学的・建築的に価値が高く、史料や碑文によって地域史の研究に寄与しています。長年にわたる改修や風化の影響を受けているため、保存・修復の取り組みが継続的に必要とされています。
ロックフォートとその寺院群は、宗教的信仰、詩歌による聖性の承認、南インドにおける初期の石造建築の例という点で重要な資産です。参拝者は歴史と信仰が交差する空間を体験でき、ティルヒラッパッリの文化的景観の中心的存在となっています。
参考
1. ↑ "Rockfort Temple,Trichy 公式サイト". www.trichyrockfort.tnhrce.in.