1972年パゾリーニ監督『カンタベリー物語』—チョーサー原作・金熊賞受賞イタリア映画
1972年パゾリーニ監督「カンタベリー物語」—チョーサー原作を斬新に映像化、金熊賞受賞の挑発的イタリア映画の魅力と論争を解説。
カンタベリー物語は、1972年にピエル・パオロ・パゾリーニが監督したイタリア映画である。ジェフリー・チョーサーによる中世の詩『カンタベリー物語』を原作としており、パゾリーニの「人生三部作」の2作目にあたる。第22回ベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞し、国際的な注目を集めた。
概要
本作は、チョーサーの全24篇から8篇を選んで映画化した群像的な作品で、巡礼という枠組みのもとで語られる短編群を連続して描くことで、原作の持つ多様な人間模様とユーモア、性的なモチーフを映像化している。語りやエピソードごとに色調や演出が変わり、劇的な場面からコメディ的なドタバタまで幅広く網羅している。
制作と演出
パゾリーニはチョーサーの原作に対し、翻案というより「再創造」を試みた。中世イングランドの物語を、イタリアの土着的な感性や庶民性を反映させた映像世界へ置き換え、原作に忠実な部分と監督自身の発想で付け加えられた場面とを織り交ぜている。撮影は主にイタリア国内で行われ、非プロの俳優やパゾリーニの常連キャストを多く起用しているため、画面には生々しい身体性と民衆的な活気が流れている。
主な特徴とテーマ
- 性的表現と裸体表現:この映画には、多くのヌード、セックス、そしてドタバタ劇のユーモアが盛り込まれています。これらのシーンの多くは、原作に存在するか、少なくとも暗示されているものである。パゾリーニ自身が追加したものもある。
- 肉体性と生の肯定:パゾリーニは身体や生殖、本能的な欲望を肯定的に描くことで、宗教的・道徳的な抑圧への反動を示している。
- 階級批判と風刺:庶民の逞しさ、権力や偽善に対する風刺が随所に表れる。
- 映像詩的な様式:色彩、民俗音楽、長回しや即興的な演出による詩的な映像美が特徴。
出演とキャストの特色
出演にはパゾリーニの常連俳優や素人、国際的な俳優が混在しており、多言語が飛び交う場面もある(後に各国語で吹替や字幕が付されることが多い)。例えば、この映画には、トム・ベイカーが小さな役で出演していた。彼はバスの妻の夫の一人として登場する。その他、多くの役者が短い物語の中で強烈な印象を残す。
評価と論争
公開当初、本作はその露骨な性表現や裸体描写のために論争を呼んだ一方で、映像表現や演出の独創性を高く評価する声も多かった。第22回ベルリン国際映画祭での金熊賞受賞は、作品の芸術性と国際的評価を示す重要な出来事である。批評家の間では、パゾリーニがチョーサーの原作に内在する俗悪さや生の力をどれだけ忠実に映像化したか、あるいは監督の個人的解釈がどの程度原作を離れたかが議論された。
影響と遺産
『カンタベリー物語』は、パゾリーニの「人生三部作」を代表する作品として、後年の映画表現やフェミニズム・性表現をめぐる議論にも影響を与えた。中世文学の映像化の一例として、翻案の可能性と限界を示す教材的価値も持つ。
総じて、本作はチョーサーの原作のエッセンスを保持しつつ、パゾリーニ独自の視点で肉体性とユーモアを前面に押し出した映画であり、その挑発的な表現は公開から半世紀を経た今も議論を呼び続けている。
キャスト
- ヒュー・グリフィス - サー・ジャニュアリー
- ラウラ・ベッティ 「バスの妻
- ニットー・ダヴォリ - パーキン
- フランコ・チッティ - 悪魔
- ジョセフィン・チャップリン - 5月
- アラン・ウェッブ(オールドマン
- ピエル・パオロ・パソリーニ - ジェフリー・チョーサー
- J.P.ヴァン・ダイン - 料理人
- ヴァーノン・ドブチェフ - ザ・フランクリン
- エイドリアン・ストリート - ファイター
- デレク・デッドマン - 赦免者(デレク・デッドミン役)
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