アザミウマ(スリップス)とは|特徴・生態・被害と防除法
アザミウマ(スリップス)の特徴・生態・農作物被害と効果的な防除法を図解で解説。発生原因や予防策、駆除の実践ポイントまでわかりやすく紹介。
アザミウマ(スリップス)は小型の昆虫で、分類上は昆虫のアザミウマ目(Thysanoptera)に属します。体は細長く、翅は縁取り状の毛(羽毛状の鱗毛)をもつのが特徴で、多くは体長1~2mmの微小な種です。学名の Thysanoptera はギリシャ語のthysanos(縁)とpteron(翼)に由来します。
特徴(形態・種類)
アザミウマ類は非常に小さく、成虫でも数ミリ程度の大きさが一般的ですが、報告によっては最大で約14mmに達する種もあります。翅は2対で細い縁取りのある羽毛状の鱗毛を持つものが多く、翅のない種や退化した種も存在します。色は黄色・茶色・黒・赤紫色など種によって異なります。英語や地域による通称としては「カミナリバエ」「カミナリムシ」「ストームフライ」「サンダーブライト」「コーンシラミ」などが使われることがあります。
生態・生活史
アザミウマの生活史は、卵、幼虫(2期)、前蛹・蛹相(植物の表面や土壌中で休眠する)を経て成虫になります。多くの温暖地域では一年に何世代も重ねることがあり、温室や被覆栽培では越冬・増殖が容易です。幼虫と成虫ともに口器は「擦り取って吸う(rasping‑sucking)」構造で、葉、花、果実などの組織をかじって細胞中の液汁を吸います。
被害と伝播する病害
スリップス類は植物の表面をかじることで、以下のような被害を引き起こします。
- 葉に白斑・銀斑(シルバリング)や点状の褐変が出る(光沢の喪失や斑点化)。
- 花弁や果実に瘢痕や変色を生じ、観賞価値や商品価値を低下させる。
- 新梢や葉が奇形・縮葉することがある(若苗への被害が致命的になる場合あり)。
- ウイルス媒介:特にトスピウイルス(例:トマト斑点萎縮ウイルス(TSWV))などを媒介する種(たとえばフランクリニエラ・オキシデンタリス/西洋花アザミウマ)は重大な二次被害を引き起こします。
分布
世界には6,000種以上のアザミウマ類が知られており、ヨーロッパには300種以上、イギリス諸島には約150種が確認されています(特に英国では多様な種が記録されており、英国に生息している種も多い)。多くの種が温暖な場所や被覆栽培条件を好み、園芸作物・野菜・果樹・花卉において重要な害虫になります。
発生の兆候・モニタリング
- 葉裏や蕾・花弁の内側を薄くこすると小さな個体が落ちる。
- 白斑・銀斑、花弁の斑点・瘢痕、若葉の変形などを早期に発見する。
- 色付き(特に青色・黄色)の粘着トラップを設置して発生密度を監視する(青色トラップは花アザミウマ類に有効とされることが多い)。
- 発生閾値は作物や市場価値によるが、温室での少数の個体でも被害が拡大するため定期的な点検が重要。
防除法(統合的防除:IPM)
アザミウマ防除は複数の手法を組み合わせるのが有効です。以下に基本的な対策を列挙します。
栽培的防除
- 圃場や温室の衛生管理:雑草や被害葉の除去、被害苗の早期撤去で初期個体群を抑える。
- 被覆やスクリーンを利用して外部からの侵入を防ぐ(新苗や苗床の検疫)。
- 過度の窒素施肥を避け、過密栽培を防ぎ通風を良くすることで発生を抑制。
生物的防除
- 天敵の利用:捕食性昆虫(オリウス類(小型捕食性カメムシ)、チャタテムシやクモ類)、捕食性ダニ(Amblyseius swirskii、Neoseiulus cucumeris など)が有効な場合が多い。
- 微生物剤:Beauveria bassiana や Metarhizium spp. のような糸状菌性の殺虫微生物は条件が整えば有効。温室内での高湿度管理と併用することで効果が上がる。
- フェロモンや行動撹乱技術はまだ限定的だが、トラップと組み合わせて発生初期の検知に有用。
化学的防除(使用上の注意)
- 有効薬剤としてはスピノサド(有機系)、ピレスロイド系、ネオニコチノイド系、成長阻害剤などが使用されることがありますが、薬剤抵抗性が問題となりやすい群です。
- 効果的にするには若令幼虫や新芽内に潜む個体を狙い、花や若葉に薬剤が届くように適切な展着剤と噴霧量で処理することが重要です。
- 天敵を導入している場合は薬剤選択に注意し、可能な限り選択性の高い薬剤や短持続性の薬剤を選ぶ。薬剤はローテーション(作用性統制)して抵抗性発達を防ぐ。
- 化学防除は他の方法と組み合わせ、必要時に限定して用いるのが基本。
温室・流通段階での対策
- 苗の搬入前検査、隔離、トラップによる早期発見。
- 入荷時や定期的に青・黄粘着トラップを設置して発生動向を把握する。
- 輸送・貯蔵中の高温・高密度環境を避け、被害が広がる前に対処。
注意点とまとめ
アザミウマは小さいため発生初期の発見が難しく、被害が商品価値に直結することから早期発見と総合的な管理が重要です。特にウイルス媒介のリスクがある種(例:西洋花アザミウマなど)は、薬剤だけでなく生物的防除や栽培管理、検疫体制を組み合わせて長期的に管理する必要があります。
参考:スリップス類は世界中で多数の種が知られており、作物被害やウイルス媒介の観点から農業・園芸分野で重要な害虫群です。発生が疑われる場合は、専門機関への相談や試料(被害葉・個体)の採取・同定を早めに行うことをおすすめします。
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