ジャック・ドゥボシェ(1942年6月8日、エーグル生まれ)は、引退したスイスの生物物理学者であり、現代のクライオ電子顕微鏡(cryo-EM)を、生体高分子を高分解能で研究するための実用的な手法へと押し上げた試料作製法の先駆者として知られている。彼の研究は、水和した試料をほぼ天然に近い状態で保つことに重点を置き、電子顕微鏡が構造を最小限の歪みで観察できるようにした。

経歴と役職

ドゥボシェは、ハイデルベルクの欧州分子生物学研究所(EMBL)に所属していた時期に重要な研究を行い、ローザンヌ大学では名誉教授としてスイスの学術界で活動を続けた。彼はドイツとスイスにまたがる共同研究ネットワークとも結び付けられており、実験室での実用的な技術と、方法論の原理を明快に説明する力をあわせ持つ研究者として広く評価されている。

科学的貢献

ドゥボシェに帰せられる中心的な技術的進歩は、電子顕微鏡のための水の確実なガラス化、つまり水溶液試料を急速に凍結して、水が結晶性の氷ではなく、損傷の少ない非晶質のガラス状氷になるようにすることである。実際には、薄い試料を極低温媒体へ十分速く落下させ、氷晶の形成を避けながら、分子を溶液に近い環境に閉じ込める薄いビトリファイド氷の膜を作る方法が用いられた。この方法によって、試料作製に伴う人工的な変化が減り、乾燥や化学固定の過程で失われていた構造の細部が保たれた。

方法と影響

ガラス化だけで高分解能構造が得られるわけではなかったが、電子検出器、顕微鏡の光学系、画像処理アルゴリズムの改良と組み合わさることで大きな力を発揮した。これらの進歩は、cryo-EMを定性的な撮像手段から、三次元分子構造を決定する定量的な方法へと変えた。その後、cryo-EMはリボソーム、膜タンパク質、ウイルス粒子、大規模なタンパク質複合体に応用され、基礎研究だけでなく、創薬やワクチン設計などの分野でも重要な役割を果たしている。

受賞

2017年、ドゥボシェはノーベル賞の受賞理由に示されるように、ジョアキム・フランク、リチャード・ヘンダーソンとともにノーベル化学賞を共同受賞した。これは、試料作製における方法論上の進歩が、実験装置の能力を広げ、新たな研究の道を開くことを示したものだった。

遺産と公的活動

研究室での仕事にとどまらず、ドゥボシェは繊細な実験技術を堅牢で再現可能なものにした人物として認識されている。彼の論文や講演は、再現性と技術へのアクセスのしやすさを重視し、cryo-EMの手法を世界中の多くの研究室へ広める助けとなった。引退後も科学の公的な語り手として活動を続け、研究のあり方や科学の社会的役割について発言している。

  • 分野: 生物物理学
  • 出生地: スイス、エーグル
  • 主要機関: EMBL、ハイデルベルク(ドイツ
  • 学術的つながり: ローザンヌ大学
  • 主な栄誉: 2017年ノーベル化学賞(共同受賞)