ニコラス・ヨンジ(Nicholas Yonge、1560年頃生まれ、1619年10月23日埋葬)は、イギリスの歌手であり出版者でした(姓は当時の綴りで「ヨンジ/ヤング」と記され、発音は現在の「ヤング」と同じです)。彼は特に、Musica transalpinaというマドリガル集を最初に刊行したことで知られています。1588年の初版は、イングランドにおけるマドリガル受容の出発点となりました。
刊行物の内容と特徴
Musica transalpinaは、もともとイタリアのマドリガル集から選ばれた作品を集め、歌詞を英語に翻訳して掲載した曲集です。冊子にはアルフォンソ・フェラボスコやルカ・マレンツィオを含む18人のイタリア人作曲家による57曲が収められており、これらは当時のイタリア語の原詩に基づきつつ英語のテクストも併記または置き換えられていました。フェラボスコは当時イギリスに居住し活動していた作曲家の一人です。
影響と意義
16世紀後半、音楽印刷は比較的新しい技術であり、音楽書の流通が広がることは演奏習慣や作曲の展開に大きく寄与しました。Musica transalpinaの刊行によって、イタリアで発達した洗練されたマドリガルの様式と表現が英語圏にもたらされ、イングランド国内で合唱音楽としてのマドリガルが急速に定着しました。これがきっかけとなり、その後約20年間で、トーマス・モーリー、ジョン・ウィルバイ、トーマス・ウィールケスらによる英語のマドリガル作曲が盛んに行われるようになりました。
続編とその影響力
1597年にヨンジは第2版のMusica transalpinaを刊行しました。この新版も広く読まれ、英国内でのマドリガル受容をさらに促進しました。ヨンジ自身は主に編者・出版者としての役割を果たし、作曲家というよりはイタリア音楽を英語圏に紹介したキュレーター的存在でした。
タイトルの意味と背景
題名のMusica transalpinaは直訳すると「アルプスを越えた音楽」を意味します。ここでの「アルプスを越えた」は、イタリア(アルプスの向こう側)から渡ってきた音楽であることを示しており、イタリア発のマドリガルがイングランドにもたらされたことを象徴する表現です。
総じて、ニコラス・ヨンジのMusica transalpinaは、単なる翻案集を超えて、エリザベス朝イングランドにおける合唱文化と作曲活動に長期にわたる影響を与えた重要な出版物と評価されています。