サイモン・ファン・デル・メール:CERNでW・Z粒子発見に貢献したノーベル物理学者
サイモン・ファン・デル・メールがCERNでW・Z粒子発見に果たした役割とノーベル受賞の軌跡を、加速器物理学の視点で詳しく解説。
これはオランダの名前である。姓はMeerではなく、van der Meerです。
Simon van der Meer、1925年11月24日 - 2011年3月4日)は、オランダの粒子加速器物理学者である。ノーベル物理学賞を受賞した。同じく物理学者のカルロ・ルッビアも同賞を受賞している。CERNプロジェクトでの業績が評価され、受賞に至った。これにより、物質中のW粒子とZ粒子の発見につながった。
経歴と職歴の概要
サイモン・ファン・デル・メールはオランダ出身の実験物理学者・技術者で、主に加速器の設計と運用に関わりました。大学での専門は電気工学・応用物理に近い分野で、実験装置や加速器のハードウェア設計に強みを持っていました。戦後からCERNで長年にわたり研究・開発に従事し、加速器ビーム制御や計測に関する多くの実務的な技術を生み出しました。
主な業績 — ストキャスティック冷却とルーメノシティ測定
ファン・デル・メールの代表的な貢献は、ストキャスティック(確率的)冷却という手法の開発です。これはビーム中の粒子の運動量や位置のばらつきを検出し、リアルタイムで補正信号を与えることでビームの広がりを小さくし、密度を高める技術です。特に反陽子のように生成量が少ない荷電粒子を長時間にわたって蓄積し、十分な衝突率(ルーメノシティ)を得るために不可欠でした。
また、彼はビームの重なり具合から絶対的なルーメノシティ(衝突率)を測定する方法、いわゆる「van der Meer スキャン」も考案しました。これは二つのビームを横方向・縦方向に相対的にずらしながら衝突率の変化を測定し、ビーム断面や重なりを正確に決定する手法で、今日の加速器実験でも標準的に用いられています。
CERNでの役割とW・Z粒子発見への貢献
これらの技術は、CERNにおける陽子–反陽子衝突実験(SPS衝突型加速器を用いた実験)で決定的な役割を果たしました。ストキャスティック冷却による高強度の反陽子ビームの蓄積と、正確なルーメノシティ測定が可能になったことで、1983年にUA1・UA2などの実験グループが標準理論で予言されていた電弱相互作用の媒介粒子であるW粒子とZ粒子を発見することができました。
ノーベル物理学賞と評価
これらの業績により、ファン・デル・メールは1984年にカルロ・ルッビアとともにノーベル物理学賞を受賞しました。受賞理由は、CERNでの大型プロジェクトに対する決定的な貢献と、その結果としてのW・Z粒子の発見に対する功績でした。彼の手法は単なる理論ではなく、実用的な装置と運用技術として実験の成功を直接的に支えた点が高く評価されました。
人物像と遺産
ファン・デル・メールは科学者としては控えめで実務的な人物として知られており、理論的な栄光よりも地道な設計・実装・運用に重きを置いていました。彼の考案した技術や計測法は、その後の加速器物理学における標準技術となり、現代の大規模加速器(例えばLHC)でも基本的な考え方や測定法が受け継がれています。
彼の業績は、単独での理論的発見ではなく、実験装置と運用ノウハウを通じて新しい現象を観測可能にした点にあります。結果として、素粒子物理学の標準理論の重要な検証が可能となり、後続の研究に大きな道を開きました。
バイオグラフィー
サイモン・ファン・デル・メールは、4人兄弟の一人である。オランダのハーグで育った。父親は学校の教師で、母親も教師の家系であった。学校は、市内の体育館に通っていた。1943年、ドイツ軍がオランダを支配しているときに卒業した。1945年、デルフト工科大学へ進学。1952年、同大学でエンジニアの学位を取得した。1956年にCERNに入社し、1990年に退社するまで在籍した。
1966年、ファン・デル・メールが友人たちとスイスの山でスキーをしていたとき、妻となるキャサリン・M・クープマンと出会った。二人の間には、エスター(1968年生まれ)とマタイ(1970年生まれ)の2人の子供がいた。
科学的な仕事
1952年にエンジニアの学位を取得した後、ファン・デル・メール氏はアイントホーフェンにあるフィリップス研究所に勤務していた。当時は、主に電子顕微鏡用の高電圧装置や電子機器の研究をしていた。1956年、当時新設されたばかりの欧州合同原子核研究機構(CERN)に移った。CERNに着任した当初は、主に技術設計や、電源の研究をしていた。CERNに在籍中、確率的冷却のアイデアを考案し、Wボソン、Zボソンの発見につながった。1984年、ヴァン・デル・メールとカルロ・ルッビアは、このプロジェクトの功績により、ノーベル物理学賞を受賞した。
関連ページ
- Wボゾン、Zボゾン
- ノーベル賞
- セルン
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