ブラジル音楽の一種であるボサノバは、ポルトガル語で「bossa nova(新しい傾向/新しい波)」を意味します。Antonio Carlos JobimとJoão Gilbertoが中心となって1950年代後半に一つのジャンルとして確立され、世界的に知られるようになりました。ボサノヴァの最初の世界的ヒットは「イパネマの娘(Garota de Ipanema)」で、これによりボサノバは国際的な注目を集めました。
特徴
リズムは基本的にサンバから派生していますが、原型の打楽器的で力強いビートをやわらげ、より控えめで落ち着いたグルーヴに変化させています。ギターやピアノが奏でる一定のパターンと、軽いシンコペーション(裏拍を強調する感覚)が特徴です。
ハーモニーはジャズからの影響が強く、7th、9th、11th、13thなどの拡張和音やテンション・コードが多用されます。これにより、やや複雑で洗練された和声進行が生まれます。ジャズの本を書いたヨアヒム・エルンスト・ベレントは、ボサノバをサンバとクール・ジャズの組み合わせだと評しています。
歌唱は一般に非常に抑制的で、親密かつささやくような声が好まれます。歌詞の内容は恋愛、海辺の情景、都会の日常、そしてブラジル語特有の「saudade(郷愁・哀愁)」といった感情を繊細に描くことが多いです。
歴史と発展
ボサノバは1950年代後半、リオデジャネイロのカフェやバー、小さなライブハウスで発展しました。キーパーソンはギタリスト兼歌手のジョアン・ジルベルト(João Gilberto)と作曲家のアントニオ・カルロス・ジョビン(Antonio Carlos Jobim)、詩人・作詞家のヴィニシウス・ヂ・モライス(Vinicius de Moraes)などです。ジョアン・ジルベルトが1958年に発表したシングル「Chega de Saudade」はボサノバの重要な出発点とされます。
1960年代に入ると、ジャズ方面との交流が進み、アメリカのサックス奏者スタン・ゲッツ(Stan Getz)との共同作「Getz/Gilberto」(1964年)が大ヒットし、“The Girl from Ipanema”(イパネマの娘)を通じてボサノバは国際的なブームとなりました。このアルバムで歌ったアストラッド・ジルベルト(Astrud Gilberto)も一躍有名になりました。
代表的な曲・アルバム
- イパネマの娘(Garota de Ipanema) — Antonio Carlos Jobim / Vinicius de Moraes
- Chega de Saudade(シェガ・ジ・サウダージ) — João Gilberto(しばしば「ボサノバの出発点」とされる曲)
- Desafinado(デサフィナード) — Antonio Carlos Jobim / Newton Mendonça
- Corcovado(コルコバード / Quiet Nights of Quiet Stars) — Antonio Carlos Jobim
- 代表アルバム:Getz/Gilberto(Stan Getz & João Gilberto) — 国際的普及の契機となった作品
主な演奏編成・楽器
ボサノバは通常、クラシックギター(ナイロン弦)とピアノで演奏されることが多く、ギターのフィンガー・スタイルで奏でられる「ボサノバのリズム・パターン」が基盤になります。パーカッション(パンドイロ〈pandeiro〉やソフトなブラシドラム)、弦楽器やホーン(トランペット、サックス)を加えたアレンジもよく用いられます。
影響と現代の状況
ボサノバはジャズ、ポップ、イージーリスニングなど世界中の音楽ジャンルに影響を与え、その後のブラジリアン・ポップ(MPB)や様々なフュージョンへと発展しました。1970〜80年代以降も再評価とリバイバルが繰り返され、現代ではエレクトロニカやヒップホップ、R&Bと融合した新しい解釈も登場しています。
聴き始めのおすすめ
- João Gilberto — Chega de Saudade(原点に触れるならまずこの曲)
- Antonio Carlos Jobim — Corcovado、Wave(ジョビンの代表作)
- Getz/Gilberto — アルバム全体(イパネマの娘を含む名盤)
ボサノバは、その控えめで洗練された美しさが魅力です。典型的なギターのリズムとジャズ由来の和声、そしてささやくような歌声を耳にすると、このジャンルの特徴がすぐに分かるでしょう。