写本(英語: codex、複数形 codices)は、ページが綴じられた本の形をした手書きの文書です。巻物が一続きの長い紙やパピルスで書かれるのに対して、写本は個々の ページが 折りたたまれ、揃えて綴じられている点が特徴です。素材は紙のほかにパピルス、ベラムや、伝統的には 羊皮紙に 書かれたものも多く、装飾を施した豪華な写本(彩飾写本、イラストレーション入り写本)も存在します。
歴史と普及
写本の存在は古代にさかのぼり、ローマの詩人マルシャルが写本を賞賛した記述が残るなど、早くから知られていました。一般に、写本は紀元1世紀ごろから使われ始め、3世紀ごろには巻物と同程度に普及しました。やがて写本の利便性が認められ、特に宗教文書や法令、学術書の形態として採用が進み、やがてグレコローマン世界では6世紀ごろまでに巻物に代わって主流になりました。
写本の特徴と構造
- ページと頁番号 — 各ページが独立しているため、索引や頁番号(現代のページ番号に相当)を付けやすく、目的の箇所を見つけやすい。
- 両面使用 — 多くの場合、折りを開いて両面に書くため、保存スペースと材料の効率が良い。
- 折り丁(クワイヤ)と綴じ — 紙や羊皮紙を折って束ね(折り丁)、糸で綴じて表紙を付ける構造。堅牢な製本が可能。
- 装飾と書式 — 見出しや装飾文字(イニシャル)、ミニアチュール(小絵)、赤字(ルビや強調)などを施すことが多く、芸術的価値を持つ。
- 追記・注釈が容易 — 余白に註記や解説を書き込めるため、学術的な利用に向く。
巻物との違い(利点と短所)
- 利点:特定のページに直接アクセスできること、持ち運びや取り扱いが容易であること、両面書きで材料を節約できること、索引や目次の作成が容易なこと。
- 短所:初期の製作には専門技術と手間がかかること、製本が劣化すると修復が必要になること。
制作と保存
写本は専門の筆写者(写字生、スクリブ)や装飾を担う画工が集まる写字室(スクリプトリウム)で制作されることが多く、修道院や都のセンターで写本文化が栄えました。素材(羊皮紙やインク)の性質、湿度や光の影響により劣化するため、現代では温湿度管理された倉庫や特殊保存箱で保管され、デジタル化による公開・保存も進められています。
代表的な写本と遺産
歴史的に重要な写本には、例えば4世紀前後の聖書写本である「コデックス・シナイティクス(Codex Sinaiticus)」や「コデックス・ヴァチカヌス(Codex Vaticanus)」などがあります。また中世の装飾写本としては「ケルズの書(Book of Kells)」や「リンディスファーン福音書(Lindisfarne Gospels)」などが知られています。これらは学術的・宗教的価値だけでなく、美術史・製本史の重要資料でもあります。
現代への影響
写本の「ページを綴じる」形式は、その後の印刷技術や近代の書籍の基本形式(コデックス形式)へと受け継がれ、現在の本の形の基礎となりました。写本は単なる古文書ではなく、文字情報の保存・伝達、芸術表現、文化交流の重要な担い手であり、学術研究やデジタルアーカイブ化を通じて今なお多くの知見を与え続けています。


