共役変数とは?位置と運動量の交換子と量子力学での定義・応用
共役変数の定義と位置・運動量の交換子をわかりやすく解説。ハイゼンベルク・ボルンの発見と量子力学での応用まで図解で理解。
共役変数とは、ある演算(たとえば演算子の掛け算や行列の積など)を行ったときに演算の順序を入れ替えると結果が変わるような、特別なペアとなる変数(例:位置と運動量)のことを指します。つまり一般に A と B があって AB ≠ BA となる場合、A と B は「非可換」ですが、物理ではその代表例が位置と運動量です。ここで「*」や「掛け算」は単なる数値の積ではなく、演算子どうしの合成(作用の順序)を意味します。
行列力学での登場と歴史的背景
ヴェルナー・ハイゼンベルクは量子現象を記述する際に、古典力学の変数を数値ではなく行列(あるいは演算子)として扱う手法を提案しました。位置を表す行列を Q、運動量を表す行列を P とすると、一般に PQ ≠ QP となり、演算の順序が物理量の値に影響します。ハイゼンベルクの行列力学を発展させたマックス・ボルンやパウル・ヨルダンらは、この非可換性を数学的に扱い、交換関係が量子力学の基本法則の一つであることを示しました。
行列の要素による例(Y と Z)
行列要素を使って積を表すと、演算の順序の違いが明確になります。例えば次の式は行列積の要素を表しています。
Y ( n , n - b ) = ∑ a p ( n , n - a ) q ( n - a , n - b )
これは演算子 P と Q の積 PQ の (n,n−b) 成分を与えます。一方で
Z ( n , n - b ) = ∑ a q ( n , n - a ) p ( n - a , n - b )
は QP の (n,n−b) 成分です。一般に Y と Z は等しくならず、これが「順序依存性(非可換性)」を具体的に示します。
交換子(commutator)と正準交換関係
二つの演算子 A と B の交換子は次のように定義されます:
[A, B] ≡ AB − BA
位置演算子 Q と運動量演算子 P の場合、量子力学の正準交換関係(canonical commutation relation)は次の形で与えられます:
[Q, P] = QP − PQ = iħ I
ここで i は虚数単位、ħ(エイチバー)はプランク定数 h を 2π で割ったものであり、I は単位演算子(恒等行列)です。つまり慣用的に書くと:
[x, p] = iħ
(x = 位置、p = 運動量の演算子の場合)この非ゼロの交換子は、同時に位置と運動量を任意の精度で測定できないことを数学的に示す根拠の一つです。
不確定性原理との関係
交換子が非零であることから、一般に不確定性関係が導かれます。位置と運動量についての標準偏差 Δx、Δp については次が成り立ちます:
Δx · Δp ≥ ħ / 2
これはハイゼンベルク不確定性原理の標準的な式で、ある状態における位置の精度と運動量の精度の間に基本的な下限が存在することを示します。
量子力学における「共役」の意味と古典力学との対応
古典力学では、位相空間における座標 q と運動量 p はポアソン括弧 {q, p} = 1 という関係を満たします。量子化(canonical quantization)では、この古典的関係を交換子に置き換え、{ , } → (1/(iħ))[ , ] の対応を用います。これにより古典方程式から量子方程式へと移行できます。
応用と具体例
- 原子スペクトルの理論:ハイゼンベルクの行列力学は、水素原子の電子のエネルギー準位や遷移を計算するための基礎を与えました。

- 場の量子論や量子化学:共役変数の概念は、場の励起(場の座標とその共役運動量)を扱う際に重要です。
- ハーモニック振動子:位置と運動量の交換関係から生成消滅演算子が導入され、エネルギー固有値の解析が簡単になります。
- 計測理論・量子情報:非可換性は測定結果の干渉や量子もつれの取り扱いに直接関係します。
最後に:要点のまとめ
- 共役変数(例:位置と運動量)は、演算子として扱ったときに順序を入れ替えると結果が変わることがある(非可換)点が特徴です。
- その非可換性は交換子 [Q,P] = iħ によって定式化され、不確定性原理などの根拠になります。
- この考え方は量子力学の基本であり、原子物理、量子化学、場の理論など幅広い応用があります。
注:本文中で使われている Q は位置を表す行列(演算子)、P は運動量を表す行列(演算子)、i は虚数単位、ħ は換算プランク定数(ħ = h / 2π)を表します。共役変数の具体的な取り扱いは、行列や作用素の定義域や境界条件によっても技術的に異なる点があるため、厳密な解析では関数空間や作用素の自己共役性などの数学的条件にも注意が必要です。
共役変数は、物理学、化学、および多くの応用科学分野で中心的な概念として用いられています。
いくつかの関連トピック
質問と回答
Q:共役変数とは何ですか?
A:共役変数とは、ある数学的演算をしたときに同じ結果にならない特別な変数の組(x、y、zのような)のことです。つまり、x*yとy*xは等しくないということです。
Q:共役変数を発見したのは誰ですか?
A:物理学者のウェルナー・ハイゼンベルグとその同僚は、古典物理学で研究された方程式を使って、量子物理学の事象を記述し予測しました。彼は、運動量(質量に速度をかけたもの、Pで表す)と位置(Qで表す)が共役変数であることを発見したのです。
Q:運動量と位置の積を計算するためには、どのような方程式を使えばよいでしょうか?
A:運動量と位置の積を求めるには、最初の方程式を用いることができる。Y(n,n-b)=∑a p(n,n-a)q(n-a,n-b).
Q:位置と運動量の積を求めるにはどのような方程式を用いればよいか?
A:位置と運動量の積を計算するには、2番目の方程式を用いることができる。Z(n,n-b)=∑a q(n,n-a)p(n-a, n-b)です。
Q:マックス・ボルンは共役変数について何を発見したのでしょうか?
A:マックス・ボルンは、P*QはQ*Pに等しくないので、Q*PからP*Qを引いた結果は0にならないことを発見した。また、Q-P - P-Q = ih/2πであることを発見した。
Q:プランク定数は量子力学でどのように現れるのですか?
A:プランク定数は、マックス・ボルンの共役変数積の計算式に登場し、量子力学によく登場します。特に、等号の片側にh/2πとして登場します。
Q:共役変数はどのような分野で応用されているのでしょうか?
A: 共役変数は物理学、化学、その他の科学のあらゆる分野に応用されています。
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