クローン病とは:原因・症状・診断・治療をわかりやすく解説
クローン病の原因・症状・診断・治療を図解でわかりやすく解説。遺伝・免疫の関係や生活管理、最新治療まで専門家が丁寧に案内。
クローン病は、腸が腫れてしまう病気で、炎症性腸疾患(IBD)の一種です。腸に潰瘍ができることもあり、病変は口から肛門まで消化管のどの部位にも起こり得ますが、特に回腸末端(小腸の終わり)や結腸に好発します。症状としては腹痛、下痢、嘔吐、体重減少がよく見られます。腸以外にも皮膚の発疹、関節炎、眼の炎症など全身症状を伴うことがあります。病名は1932年に症例を報告したBurrill Bernard Crohnにちなんで付けられましたが、病変の記載は18世紀のジョヴァンニ・バッティスタ・モルガーニにもさかのぼります。
原因とリスク要因
クローン病の正確な原因はまだ完全には解明されていません。現在の理解では、遺伝的素因に加えて環境因子や腸内細菌叢、そして免疫応答の異常が関与すると考えられています。具体的には以下が関連するとされています:
- 遺伝的要因:家族歴がある人は発症リスクが高く、特定の遺伝子変異が関係します(例:NOD2など)。遺伝子に関連する傾向が明らかになっています。
- 免疫関連:腸内の抗原に対する過剰な免疫応答により、免疫システムは正常な消化管の組織を傷害して炎症を引き起こします。ただし、自己抗体が主因となる典型的な自己免疫疾患ではありません——自己免疫とは異なる「免疫媒介性の炎症」と理解されています。
- 環境要因:喫煙はクローン病の発症および病状悪化のリスクを高めます。都市化、食生活(高脂肪・高糖質など)、抗生物質の使用履歴も関連が指摘されています。
- 腸内細菌:腸内フローラの乱れが免疫応答を変化させると考えられています。興味深いことに、特定の寄生虫に感染すると炎症が抑えられる可能性を指摘する報告もあり、寄生虫の腸内虫は、腸の炎症を抑えるように見えるという研究もあります(ただし治療法として確立されたわけではありません)。
よくある症状
- 腹痛やけいれん、食後悪化することがある
- 下痢(時に血便)や頻回な排便
- 嘔吐、腹部膨満
- 体重減少、食欲不振、栄養不足(鉄、ビタミンB12、葉酸欠乏など)
- 肛門周囲の疾患(肛門裂肛、瘻、膿瘍)
- 腸外症状:皮膚発疹、関節炎、眼炎、肝胆道の合併症など
診断
診断は症状、身体所見、検査結果の総合で行います。代表的な検査:
- 血液検査:貧血、炎症マーカー(CRP、ESR)の上昇、電解質や栄養状態の評価
- 便検査:感染性下痢の除外、便カルプロテクチンで腸炎の存在を推定
- 内視鏡検査:大腸内視鏡(生検を含む)は確定診断の中心。病変の分布(スキップ病変)や潰瘍、粘膜の変化を直接確認します。
- 画像検査:MRI腸管造影、CT小腸造影、超音波などで小腸の病変、瘻や狭窄、膿瘍を評価します。カプセル内視鏡が小腸全体の観察に用いられることもあります。
治療と管理
クローン病は慢性で再発を繰り返す疾患ですが、適切な治療で炎症を抑え、寛解(症状の消失)を目指します。ライフスタイルの改善と薬物療法の組み合わせが基本です。
- 急性増悪時の治療:コルチコステロイド(プレドニゾロンなど)で速やかに炎症を抑えます(長期使用は副作用に注意)。
- 維持療法:免疫抑制薬(アザチオプリン、6-MP、メトトレキサート)や生物学的製剤(抗TNFα:インフリキシマブ、アダリムマブ、抗α4β7など)で再発を防ぎます。薬物の選択は病変の部位や重症度、合併症の有無で決まります。
- 抗生物質:メトロニダゾールやシプロフロキサシンは肛門周囲病変や膿瘍に有効な場合があります。
- 栄養療法:特に小児では、専用の栄養療法(除外的経腸栄養療法)が寛解導入に有効とされています。成人でも栄養管理と欠乏補正が重要です。
- 外科治療:狭窄や閉塞、再発する瘻や膿瘍、出血などの合併症に対しては外科的切除やドレナージが必要になることがあります。外科は症状を改善しますが、根治的治療ではなく再発は起こり得ます。
- 代替療法:代替医療が試みられることがありますが、エビデンスは限られており、主治医と相談しながら行うべきです。
日常生活と注意点
- 禁煙は特に重要です(喫煙は病状悪化・再燃のリスクを上げます)。
- NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)は腸に負担をかけ、悪化させることがあるため注意。
- 栄養不足のチェックと補充(鉄、ビタミンB12、ビタミンDなど)。必要に応じて栄養士との連携を。
- 免疫抑制薬を使用中は感染症リスクが高まるため予防接種や感染症対策が重要。生ワクチンは避ける場合があります。
- 妊娠・出産:多くの場合、寛解期に妊娠することが望ましく、使用薬剤の安全性については産科・消化器専門医と相談してください。
合併症と経過
クローン病は病変が壁の全層に及ぶ(transmural)ため、瘻や腸閉塞、膿瘍、栄養障害などの合併症を起こしやすいのが特徴です。長期的には手術が必要になる患者さんも多く、病勢の個人差は大きいですが、最近は生物学的製剤の登場で合併症の発生や手術率が減少してきています。
いつ受診すべきか
持続する腹痛、長引く下痢、体重減少、血便、発熱、肛門周囲の腫れや痛みなどがある場合は早めに医療機関を受診してください。既にクローン病と診断されている場合でも症状の悪化や新しい症状が出たら担当医に相談しましょう。
まとめると、クローン病は慢性の炎症性腸疾患であり、原因は複合的(遺伝・免疫・環境・腸内細菌)です。正確な診断と個々の病態に合わせた治療、生活面の管理が大切です。治療選択や長期管理については消化器専門医とよく相談してください。
質問と回答
Q:クローン病とは何ですか?
A: クローン病は、腸が腫れて潰瘍ができる炎症性腸疾患(IBD)の一種です。胃の痛み、下痢、嘔吐、体重減少、皮膚の発疹、関節炎、目の腫れなどが起こります。
Q: 最初にクローン病の症例を報告したのは誰ですか?
A: 1932年にBurrill Bernard Crohnがクローン病の症例を初めて報告しました。しかし、18世紀にはGiovanni Battista Morgagniが最初に記述しています。
Q: 何がクローン病を引き起こすのですか?
A: 正確な原因はわかっていませんが、兄弟姉妹にクローン病患者がいる場合、その人の遺伝子と関係があるようです。また、体が自分自身を攻撃して消化管の腫れを引き起こすという、根本的な免疫の問題が関与している可能性もあると考えられています。
Q: クローン病を治す方法はあるのですか?
A: 残念ながら今のところクローン病を治す方法はありませんが、生活習慣の改善や様々な薬物療法によって対処しています。
Q: クローン病になりやすいのは男性ですか、それとも女性ですか?
A: 男性も女性もクローン病にかかる可能性がありますので、どちらの方がリスクが高いということはありません。
Q: 代替医療はクローン病の治療に役立ちますか?
A: 腸に寄生する虫などの代替療法は、腸の炎症を抑えるようですが、その効果は不確実であり、個人差があります。
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