フラーレン(C60)とは:構造・合成法・歴史と応用をやさしく解説

フラーレンは、炭素のみで構成された中空の分子で、球体・楕円体・チューブ状など様々な形をとります。球状の代表例はC60で、外見がサッカーボールに似ていることから「バッキーボール」とも呼ばれます。円筒状のものはカーボンナノチューブ(バッキーチューブ)と呼ばれ、どちらも中空の形状を持つことが特徴です。1985年にハロルド・クロト(サセックス大学)と、ライス大学のロバート・カール、リチャード・スマリーによって発見され、その形がジオデシック・ドームのように見えることから、バックミンスター・フラーにちなんで「フラーレン」と命名されました。

構造の特徴

C60(最もよく知られるフラーレン)は、正五角形が12個、正六角形が20個組み合わさってできたサッカーボール型の分子です。点群は高い対称性を示すイコサヘドラル(Ih)で、直径は約0.71 nm、分子量は約720 g·mol−1です。炭素間には類似した長さの結合が2種類(いわゆる「短い結合」と「長い結合」)あり、π電子が広く非局在化しているため独特の電子的性質を示します。

合成法(概要と代表的方法)

フラーレンは高温での炭素蒸発・凝縮によって生成します。代表的な合成法と工程は次の通りです:

  • アーク放電法:黒鉛電極間で電気アークを発生させ、ヘリウムアルゴンなどの不活性ガスの雰囲気中で黒鉛を加熱・蒸発させます。生成したすす(soot)中にC60やC70などが含まれ、溶媒抽出やクロマトグラフィーで分離・精製します。
  • レーザーアブレーション:高出力レーザーで黒鉛ターゲットを蒸発させる方法。研究用にC60抽出が行われます。
  • 燃焼・プラズマ法:有機燃焼やプラズマ中での生成を利用する手法も研究されています。

得られるすすには多種類のフラーレン(C70, C76, C84など)やその他カーボンナノ材料が混在するため、トルエンなどの有機溶媒による抽出、シリカや逆相クロマトグラフィー、真空昇華などによって分離・精製します。化学合成でフラーレン骨格を完全に組み上げる試みもありますが、実用的には高温法が主流です。

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C60の回転構造

化学的性質と反応性

  • フラーレンはπ電子系を持ち、電子受容体的な性質を示します。容易に一価~多価の陰イオン(C60, C602−など)を形成します。
  • 付加反応(ハロゲン化、ハイドロゲネーション、ディールス–アルダー反応など)や付加環化反応により、水溶性や機能性を高めるための誘導体化が可能です。
  • 金属イオンを内包したエンドフラーレン(endohedral fullerenes)や、フラーレン同士を結合させたポリマー化など多様な化学修飾が行えます。

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サッカーボールはC60フラーレンのモデルです。

代表的な物性と応用例

フラーレンの特性を活かした応用分野は広範囲に及びます。主な例を挙げます:

  • 有機太陽電池(OPV):フラーレン誘導体(例:PCBM)は電子受容体として広く用いられ、ドナー材料と組み合わせて光電変換材料として利用されます。
  • 超伝導体:アルカリ金属でドーピングしたフラーレン(例:K3C60)は低温で超伝導を示します。
  • 医療・生体応用の研究:抗酸化作用を利用したドラッグデリバリー、光線力学療法(PDT)、造影剤(エンドフラーレンを利用)など、多くの研究が進められています。ただし安全性や生体分解性の評価が重要です。
  • 潤滑剤・材料化:分子潤滑剤や高強度材料、センサー、触媒担体などの材料用途。
  • ナノ・エレクトロニクス:単一分子デバイスや分子スイッチ、量子ビット(例:N@C60 のスピン特性を利用)などの基礎研究が行われています。

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C60フラーレンのネットワーク

歴史的背景と受賞

フラーレンの存在は、天体化学の研究背景(炭素鎖の凝縮過程のシミュレーション)から発見されました。1985年の発見以降、フラーレンは新しい炭素同素体として注目を集め、1996年には発見者であるハロルド・クロト、リチャード・スモーリー(Smalley)、ロバート・カール(Curl)にノーベル化学賞が授与されました(注:ローマ字表記は英語表記由来)。

安全性・環境

フラーレンとその誘導体の毒性や環境影響は、化学修飾や分散状態(粉末・溶液・分子封入)によって大きく異なります。純粋なC60は水に溶けにくい一方で、機能化により生体に取り込まれやすくなる場合があります。生体安全性、分解性、環境中での挙動については継続的な評価が必要です。

現在の研究動向

  • フラーレンを用いた高効率有機太陽電池材料の最適化。
  • エンドフラーレン(内部に金属や原子を封入)を用いた新規材料・医療応用。
  • フラーレンを基盤とした分子エレクトロニクスや量子情報素子の研究。
  • 環境・安全性評価の強化と、バイオ適合化誘導体の開発。

まとめると、フラーレンは独特な幾何学構造と電子特性を持つ炭素材料で、基礎科学から応用研究まで幅広い分野で注目されています。合成・精製技術や機能化の進展により、今後さらに多様な用途での実用化が期待されています。

質問と回答

Q:フラーレンとは何ですか?


A:フラーレンとは、炭素のみからなる分子で、中空の球状、楕円体状、筒状をしているものを指します。

Q:フラーレンは誰が発見したのですか?


A:フラーレンは、1985年にサセックス大学とライス大学のロバート・カール、ハロルド・クロト、リチャード・スマレーの3人によって発見されました。

Q:なぜバックミンスター・フラーにちなんで名づけられたのですか?


A:バックミンスター・フラーの有名なジオデシックドームが、バッキーボールとも呼ばれる球状のフラーレンと形状が似ていることから名づけられました。

Q:フラーレンはどのように作られるのですか?


A:グラファイトをヘリウムやアルゴンのような不活性ガスの存在下、電気アークで加熱することで作られます。

Q:C60とは何のことですか?


A:C60は、フラーレンの一種で、サッカーボールのような回転構造を持つものを指します。

Q:C60のネットワークとは何ですか?


A: C60のネットワークとは、60個の炭素原子がサッカーボールのような六角形や五角形に結合している化学構造のことである。

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