階層型データベースとは?定義・仕組み・利点とIMS/Windows Registryの事例
階層型データベースの定義・仕組み・利点を徹底解説。IMSやWindows Registryの事例で実用性や設計ポイントまでわかる入門ガイド。
階層型データベースモデルは、データを木(ツリー)構造で表現するデータモデルです。各ノードがレコード(エンティティ)を表し、親子関係に基づいてデータが組織されます。親ノードは複数の子ノードを持てますが、子ノードは原則として一つの親しか持ちません。このため、エンティティタイプ間の関連は1対N(一対多)として表現され、特定のレコードに属する属性はそのエンティティタイプの下に列挙されます。
関係データベースでいうと、エンティティタイプはテーブル、個々のレコードは行、属性は列に相当しますが、階層型データベースでは「親子の関係」と「物理的な配置(ポインタ)」を使ってデータへ直接アクセスする点が特徴です。アクセスはツリーのルートからのトラバース(走査)で行われることが多く、ある親に紐づく子を効率よく取得できます。
階層型データベースの代表例として、IBMが開発したIMS(Information Management System)や、Microsoftが開発したWindows Registryが知られ、実運用で長く使われています。
構造の具体例(簡易図)
ルート(Company) ├─ Department(部署A) │ ├─ Employee(従業員1) │ └─ Employee(従業員2) └─ Department(部署B) └─ Employee(従業員3)
主な利点
- 高速な親子アクセス: 木構造に沿ったアクセスは、特定の親に紐づく子を取得するのに効率的で、ポインタによる直接参照で高速に動作します。
- 直感的なデータ表現: 階層的な現実世界のモデル(組織構造やファイルシステム、設定ツリーなど)を自然に表現できます。
- 単純な整合性: 一方向の親子関係により、参照整合性の管理が比較的簡単です。
- 成熟した商用実装: IMSのように大規模かつ高可用性が求められるシステムで実績があり、信頼性やトランザクション機能が備わっている実装もあります。
主な欠点(制約)
- 柔軟性の欠如: 一つの子が複数の親を持つ「多対多」の関係を自然に表現できないため、データの重複や複雑なリンク(冗長なポインタ)を必要とすることがあります。
- スキーマ変更の困難さ: 階層構造の変更や再編成が難しく、スキーマ拡張時に大規模な移行作業が発生する可能性があります。
- クエリの制約: 関係データベースのような柔軟な結合(JOIN)や集合演算が使いにくく、複雑な問い合わせには不向きです。
- 部分的な汎用性不足: 汎用のDBMSに比べ、用途が限定されやすく、汎用的な分析やアドホッククエリには不便です。
IMS(IBM)の事例
- 用途: 銀行業務や保険、生命保険、基幹系トランザクション処理など、高トランザクション量かつ高可用性が要求される分野で長年利用されています。
- 特徴: IMSはデータベース機能(IMS DB)とトランザクション・モネジャ(IMS TM)を備え、堅牢なトランザクション処理、バックアップ・リカバリ機能、インデックスやパスによる高速アクセスを提供します。物理的なデータ配置に基づくアクセス方法(パス定義)を用いるため、設計次第で非常に高速に動作します。
- アクセス方法: DL/I(Data Language/I)など専用のアクセス言語やAPIを介してデータにアクセスします。設計段階でのパス設計が重要です。
Windows Registryの事例
- 用途: Windows OSやアプリケーションの設定情報を保存する階層型の設定データベースです。レジストリはキー(フォルダーに相当)と値(属性)で構成され、システムやユーザーごとの設定を管理します。
- 特徴: レジストリは高速なキー探索と読み書きが可能で、OS起動時やアプリケーション実行時に頻繁に参照されます。レジストリは複数の「ハイブ(hive)」ファイルに分割され、物理的にはファイルとして保存されますが、APIを通してツリー構造で扱います。
- 注意点: レジストリの誤った編集はシステム不具合の原因になり得るため、運用やバックアップに注意が必要です。トランザクション的な扱いは限定的で、スキーマ管理の仕組みは一般のDBMSほど強力ではありません。
利用に向くケース
- データが明確に階層構造を持ち、親から子へ順にアクセスするパターンが主となる業務(例:組織ツリー、製品構成、設定データ)。
- 高頻度で親子単位の読み出しが行われ、アクセスパスが事前に確定しているシステム。
- 高性能なトランザクション処理や可用性が求められ、既存のIMSなどの成熟した実装を活用するケース。
階層型と他モデルの比較ポイント
- リレーショナルDB: 多対多関係や複雑な問い合わせ、集合演算に強い。スキーマ変更や柔軟なクエリが必要ならリレーショナルが有利。
- ネットワークDB: ネットワークモデルは子が複数の親を持てる(多対多表現が可能)ため、階層モデルより柔軟だが構造は複雑。
- ドキュメント/キー・バリューDB: 階層構造をJSONやXMLで表現でき、柔軟なスキーマを持つアプリケーション(例:設定やログ)には向く。ツリーのクエリ機能やインデックスの有無で性能が変わる。
- ディレクトリサービス(LDAP等): 階層的な問い合わせが多い属性ベースの検索に適する。LDAPは階層モデルに近い用途でよく使われます。
運用上の注意点
- 設計時にアクセスパス(どのノードからどのノードへアクセスするか)を明確にする。これが性能に直結します。
- スキーマ変更の影響を事前に評価し、必要なデータ移行手順を用意する。
- バックアップとリカバリ方針を確立する。特に、Windows Registryのようなシステム設定を扱う場合は定期バックアップが重要です。
- データの重複を避けるための設計(正規化の代替手段)や、冗長化された参照をどう扱うかを検討する。
まとめると、階層型データベースは“木構造で表現できるデータ”に対して直感的で高性能なアクセスを提供しますが、柔軟性や汎用的なクエリ性能ではリレーショナルや他のモデルに劣る点があります。用途やアクセスパターンを踏まえて、IMSのような成熟した階層DBを使うか、またはより柔軟なデータモデルを採用するかを判断することが重要です。

階層的なモデルの例。
質問と回答
Q: 階層型データベースモデルとは何ですか?
A: データが木のように構成されているデータモデルです。
Q: 階層型データベースモデルでは、情報の繰り返しはどのように許されますか?
A: 親子関係を使用することで、各親は多くの子を持つことができますが、各子は1つの親しか持ちません。
Q: データベースのエンティティ・タイプとは何ですか?
A: エンティティ・タイプとは、特定のレコードのすべての属性が列挙されたテーブルに相当します。
Q: 個々のレコードはデータベースでどのように表現されますか?
A: 個々のレコードは行として表現され、属性は列として表現されます。
Q: データベースの中でエンティティ・タイプはどのように関連していますか?
A: エンティティ・タイプは、1対多の関係としても知られる1対Nのマッピングを使用して互いに関連付けられます。
Q: 最もよく知られ、使用されている階層型データベースは何ですか?
A: 最もよく知られ、使用されている階層型データベースは、IBMが開発したIMSとマイクロソフトのWindowsレジストリです。
Q: 階層データベースモデルにおける親と子の違いは何ですか?
A: 親は多くの子を持つことができますが、各子は1つの親しか持ちません。
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