自然への訴え(アピール・トゥ・ネイチャー)とは|定義・誤謬・具体例

「自然だから良い」は誤謬?自然への訴えの定義・誤りの理由と具体例をわかりやすく解説し、論理的思考を鍛える入門ガイド。

著者: Leandro Alegsa

自然への訴え(アピール・トゥ・ネイチャー)とは、あるものが「自然」だから良い、あるいは「不自然」だから悪い、と結論づける論法・主張を指します。典型的には次のような形で現れます。
「Xは自然である。したがってXは良い(正しい、安心、無害である)」、あるいはその逆です。

なぜ誤謬(誤った議論)になりうるか

  • 「自然」の定義が曖昧で主観的 — 何が「自然」で何が「不自然」かは人によって異なり、同じ行為についても意見が分かれます。たとえば「肉を食べること」はある人にとっては自然な行為、別の人にとっては不自然と捉えられます。
  • 記述(ありのまま)から規範(すべきこと)を導けない — あるものが自然であるという事実だけでは、それが「良い」「正しい」「安全」であることを論理的に示すには不十分です。これは哲学で言う「is–ought問題」に関わります。
  • 反例が多数ある — 自然の中には有害なもの(猛毒のキノコや病原体)が多く、逆に「不自然」とされるもの(薬や手術、ワクチンなど)は病気の治療や予防に役立ちます。たとえば「自然な植物や動物には毒が多いが、ワクチンのような『不自然』なものは病気に対して有益である」という事例がそれです。

具体例

  • 「天然の化粧品だから安全だ」→ 天然成分でもアレルギー反応や毒性を持つものはある。
  • 「人工甘味料は不自然だから健康に悪い」→ 科学的な毒性評価や用量依存性を見る必要がある。
  • 「自然療法だけを信じるべきだ」→ 効果が実証されている治療を放棄すると害を被る場合がある。

類似する概念との違い

  • 自然主義的誤謬(naturalistic fallacy) — 倫理学で用いられる概念で、「ある性質が自然である=道徳的に良い」と結びつける誤りを指します。アピール・トゥ・ネイチャーは日常的な言説で見られる同種の思考の誤りです。
  • 伝統への訴え(アピール・トゥ・トラディション)とも似ているが、こちらは「昔からそうだから正しい」とする点が異なります。

どんなときに「自然」は合理的な根拠になりえるか

全く無意味というわけではありません。「自然であること」が関連性のある証拠の一部となる場合はあります。たとえば生態系のバランスを論じるとき、生物学的な性質や自然の挙動を根拠にするのは当然です。しかしその場合でも、「自然だから良い」という単純な結論ではなく、具体的な因果関係やデータに基づいて判断する必要があります。

反論の仕方(実務的なチェックリスト)

  • 「自然」の定義を明確にさせる:何をもって自然と呼んでいるのか尋ねる。
  • 因果関係を要求する:自然であることがどうして良さや安全に結びつくのか説明を求める。
  • 反例を示す:自然で有害なものや不自然で有益なものを挙げる。
  • データや研究を提示する:健康や安全の主張なら疫学データや毒性試験などの実証的根拠を求める。
  • 価値判断を明確にする:その主張が「事実」の問題か「価値観(好み・信条)」の問題かを区別する。

まとめ

自然への訴えは説得力を持つことはあるが、論理的に妥当とは限らない。何かを「自然」だというだけで自動的に良い/安全だと結論づけるのは誤謬であり、具体的な証拠や因果関係の検討が必要です。議論においては、用語の定義を明確にし、実証データと価値判断を区別することが重要です。

自然をアピールする代表的な例として、食品や衣料品、健康食品などのラベルや広告に見られるものがあります。ラベルには「オールナチュラル」という言葉が使われ、製品が環境にやさしく、安全であることを示唆している場合があります。しかし、「ナチュラル」な製品は、安全でも、環境に優しくも、効果的でもない場合があります。

質問と回答

Q:自然への訴えとは何ですか。
A:自然への訴えとは、ある物事が「自然」であるがゆえに善であり、「不自然」であるがゆえに悪であるとする主張です。

Q:自然への訴えはなぜ悪い議論になるのですか?


A: 自然への訴えは2つの理由で悪い議論になり得ます。第一に、何が「自然」であるか「不自然」であるかについて、誰もが同意しているわけではありません。第二に、何かが明らかに自然であったり不自然であったりしても、それだけでそのことが良いとか悪いということにはなりません。

Q: 何が自然か不自然かについて、人によって意見が異なる例を挙げてください。
A: 肉を食べることは、ある人にとっては自然で、ある人にとっては不自然です。

Q: 自然のもので悪くなりうるものの例を挙げてください。
A:多くの「自然な」動植物には毒があります。

Q:良いこともある不自然なものの例は?


A:薬やワクチンのような非自然的なものは、病気に対して役に立つことがあります。

Q: なぜ自然へのアピールだけに頼らないことが重要なのですか?


A:自然への訴えだけに頼らないことが重要です。なぜなら、それは悪い議論になる可能性があり、何が自然か不自然かについて誰もが同意するわけではないからです。

Q: 自然への訴えが悪い議論になりうる2つの理由は何ですか?


A: 自然への訴えが悪い議論になりうる理由は2つあります。第一に、何が「自然」であり「不自然」であるかについて、誰もが同意しているわけではありません。第二に、何かが明らかに自然であったり不自然であったりしても、それだけでその物事が良いとか悪いとかいうことにはなりません。


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