概要
承認投票は、投票用紙に並んだ候補者のうち、有権者が支持できる者を何人でも示せる選挙方式です。1人だけを選ぶのではなく、選択肢として受け入れられる候補者すべてに印を付けます。各候補者の得点は、受けた承認の総数で決まり、最も多くの承認を集めた候補者、または複数の候補者が当選します。この方式は、1議席の選挙にも、上位得票者を選ぶことで複数議席の選挙にも使えます。
仕組み
投票用紙の形式は意図的に単純です。候補者ごとに、有権者は承認する者にチェックや印を付けます。集計は、各候補者に付いた印を単純に合計するだけです。1人だけを選ぶ選挙では、最も多くの承認を得た候補者が勝ちます。複数人を選ぶ選挙では、承認数の上位N人が当選します。引き分けが生じた場合は、事前に定めた規則に従って、決選投票、無作為抽出、または自治体や団体が定めたタイブレーク規定で決めることがあります。
利点と一般的な用途
- わかりやすさ: 投票用紙は有権者にとって理解しやすく、管理者にとっても手集計・機械集計のどちらでも扱いやすいです。
- 票割れの軽減: 有権者は、票を無駄にせず複数の妥当な候補を支持できるため、小選挙区型の単純多数決で起こりやすい「スポイラー効果」を抑えやすくなります。
- 表現の幅: 1人だけに絞らず、最有力候補だけでなく妥協可能な候補への支持も示せます。
- 導入の柔軟性: 団体、専門職組織、一部の地方自治体で、導入コストが低く、集計の透明性が高いことから採用されています。
歴史と発展
承認投票に似た形式は、20世紀を通じて政治理論家や数学者によって論じられ、1970年代に学者がその性質や効果を分析したことで広く注目されるようになりました。以後、単純多数決に代わる方式の一つとして学術研究で検討されてきました。伝統的な単一選択方式や順位付け方式ほど広く使われているわけではありませんが、承認投票は、単純さと戦略的制約の少なさが重視される民間組織や地域の場でさまざまに導入されています。
批判と限界
どの投票制度にも戦略的な判断はつきものであり、承認投票も例外ではありません。有権者は、どの範囲まで承認するかを決める必要があります。最有力候補だけに投票する「ブレット投票」か、複数候補を承認するかによって、結果が変わることがあります。批判者は、第一順位の支持がわずかに過半数に届く候補が、支持者の多くが人気の高い妥協候補にも承認を与えたために敗れる状況を指摘します。また、承認投票は選挙理論家が重視するあらゆる理論的基準を満たすわけではありません。たとえば、どのケースでもコンドルセ勝者の当選を保証するものではありません。こうしたトレードオフがあるため、強い候補が3人以上立候補する場面では、有権者がなお戦術的判断を迫られると指摘する人もいます。
変種と比較
承認投票は、単純多数決(最多得票制)、即時決選投票のような順位付け方式、そして得点投票とよく比較されます。単純多数決に比べると、承認投票は死票や票割れを減らしやすいです。順位付け方式と比べると、承認投票はより簡単ですが、相対的な好みの細かな情報は伝わりにくくなります。得点投票では候補者を尺度で評価しますが、承認投票ではその段階的な評価を、承認・非承認という二値の選択に置き換えるため、情報の粒度は粗くなります。
実務上の考慮点と例
自治体や団体が承認投票を検討する際には、投票用紙の設計のわかりやすさ、引き分け処理の規則、そして複数候補を承認することの意味についての有権者教育が重視されることが多いです。実際の導入例では、この方式が堅牢で、運営コストが低く、1人を選ぶ選挙にも複数人を選ぶ選挙にも適応しやすいことが示されています。もっとも、どの制度改革でもそうであるように、現実の選挙で単純さ、表現力、戦略的誘因のどれをどう両立させるかについて、支持者と批判者の議論は続いています。