アーキビスト(アーカイブ管理者)とは|役割・業務・保存の基礎知識
アーキビストの役割・業務、保存技術や評価基準を実務目線でわかりやすく解説。アーカイブ管理の基礎を短時間で学べる入門ガイド。
アーキビストとは、長期的に価値があると判断された情報を収集、整理、保存、管理し、アクセスを提供する専門家のことです。アーキビストが管理する情報は、あらゆる形態のメディア(写真、ビデオまたは音声記録、手紙、文書、電子記録など)に対応しています。
リチャード・ピアース=モーゼスが書いたように、"アーキビストは、過去の信頼できる記憶として永続的な価値を持つ記録を保管し、人々がその記録の中から必要な情報を見つけ出し、理解する手助けをする "のです。
どのような記録に永続的な価値があるかを判断することは、必ずしも容易ではありません。アーキビストは、保管や保存のコストを正当化できるだけの価値のある記録を選び、さらに整理、記述、参照サービスなどの労働集約的な費用をかけなければなりません。アーカイブズの実践を支える理論や学術的研究は、アーカイブズ科学と呼ばれています。
アーキビストの主な役割と業務
- 選別・収集(アプレイザル):どの資料を保存対象とするか判断し、収集方針を策定します。
- 整理と記述(カタログ化):資料を体系的に整理し、検索可能なメタデータを作成します。
- 保存(保存管理):物理的・デジタル両面で資料の長期保存を実施・監視します(環境管理、フォーマットの維持、チェックサムなど)。
- アクセス提供と利用支援:利用者が資料を検索・利用できるようにし、問い合わせ対応やコピー提供を行います。著作権や個人情報の取り扱いにも配慮します。
- デジタル化とデジタルアーカイブ運用:紙資料や視聴覚資料のデジタル化、リポジトリの構築・運用、データのバックアップやディジタル保護を行います。
- 方針・規程の整備と教育:収集方針、保存方針、災害対策計画を作成し、職員や利用者への説明・教育を行います。
記録の選定(アプレイザル)の考え方
記録を保存するかどうかは、歴史的・法的・文化的・研究的・証拠的価値など多角的な観点から評価されます。評価基準には以下のようなものがあります。
- 唯一性・希少性(同様の情報が他に残っていないか)
- 法的・行政的証拠価値(法的根拠や権利関係を示す資料か)
- 研究・教育上の重要性(将来の研究に有用か)
- 文化的・社会的価値(コミュニティや社会の記憶として重要か)
- 保存可能性とコスト(保存・管理に要する負担と効果のバランス)
保存の基礎知識(物理的保存とデジタル保存)
物理的保存では、温湿度管理、害虫対策、防災対策、適切な資材(保存用箱・フィルムケース)や保存場所の確保が重要です。紙や写真、フィルムなどは劣化しやすいため、環境管理と劣化モニタリングが必要です。
デジタル保存では、ファイルの完全性保持(チェックサム)、冗長化(複数拠点での保管)、フォーマットの長期的な可読性(フォーマット移行やエミュレーション)、メタデータ管理が重要です。代表的な保存用の技術概念としては、OAIS(ISO 14721)モデル、定期的なバックアップ、ウォーターマーキングや暗号化による権利管理などがあります。
メタデータと記述様式
利用と保存の双方でメタデータは不可欠です。代表的な標準には以下があります。
- Dublin Core(基本的な記述要素)
- ISAD(G)(アーカイブ資料の記述基準)
- METS(メタデータ交換標準)、PREMIS(デジタル保存の保存メタデータ)
適切なメタデータは検索性を高めるだけでなく、保存時のコンテキストや権利情報、技術的情報(ファイル形式、作成日時、チェックサム)を残す役割も持ちます。
アクセスと法的・倫理的配慮
アーカイブは利用者に情報を提供することが使命ですが、次のような制約や配慮が必要です。
- 著作権・利用許諾:複製や公開の可否を確認し、必要な許諾を得る。
- プライバシーと個人情報保護:個人情報や機微な情報は匿名化や非公開措置を検討する。
- 文化財・コミュニティの権利:先住民資料や文化遺産に関する特別な配慮。
- 利用条件の明示:利用目的に応じたアクセス制限や利用者規約の策定。
デジタル化とフォーマットの選択
デジタル化はアクセス拡大と保存の両面で重要ですが、マスター保存用のフォーマット選びが鍵です。一般的な推奨例としては、画像は非圧縮TIFFや高品質のJP2、音声はWAV(リニアPCM)、動画はオープンで広くサポートされるコンテナとコーデック(例:FFV1+MatroskaやMXF)などが挙げられます。フォーマットは将来の可読性を考慮して選定し、必要に応じて移行(マイグレーション)計画を立てます。
災害対策と継続計画
火災・水害・地震・サイバー攻撃などへの備えとして、アーカイブは災害復旧計画(DRP)と事業継続計画(BCP)を整備します。重要なポイントは以下の通りです。
- 重要資料の優先度設定とオフサイトバックアップ
- 緊急時の対応手順と連絡体制の確立
- 防災・避難訓練、定期的なリスク評価
必要なスキル・資格・キャリアパス
アーキビストに求められるスキルは多岐にわたります。学術的には図書館情報学やアーカイブ学の大学院プログラムが基礎となることが多く、実務では次のような能力が求められます。
- 資料の歴史的文脈を理解する力
- メタデータ設計やデジタルリポジトリ運用の技術力
- 保存技術(物理・デジタル)の知識
- 法律や倫理に関する理解(著作権、個人情報保護)
- 利用者対応や教育のためのコミュニケーション能力
就業先は公文書館、図書館、大学・研究機関、企業の記録管理部門、博物館、自治体など多様です。また、専門学会や研修(国内外のアーカイブ関連団体)を通じて技術や知識を継続的に更新することが重要です。
現代におけるアーキビストの重要性
デジタル化の進展により情報は爆発的に増加していますが、それに伴って情報の信頼性や保存可能性が課題になっています。アーキビストは、個人・組織・社会の記憶を保護し、将来の世代が史料に基づいて判断できるようにするという重要な役割を担っています。適切な保存とアクセスの仕組みは、歴史研究、行政の透明性、文化継承、社会的記憶の維持に不可欠です。

処理されていない資料のコレクションを調査するアーキビスト。調査は一般的に、アーキビストが整理や記述を始める前に、資料の保存や保全の優先順位を決定するために行われる。
関連ページ
- アーカイブ
- ライブラリー
- 原稿
- プリザベーション
質問と回答
Q: アーキビストとは何ですか?
A: アーキビストとは、長期的な価値があると判断される情報を収集、整理、保存、管理し、アクセスを提供する専門家のことです。
Q: アーキビストはどのような情報を管理することができますか?
A: アーキビストは、あらゆる形態のメディア(写真、ビデオや音声記録、手紙、文書、電子記録など)を管理することができます。
Q: アーキビストの役割とは何ですか?
A: アーキビストの役割は、過去の信頼できる記憶として永続的な価値を持つ記録を保管し、人々がその記録から必要な情報を見つけ、理解するのを助けることです。
Q: アーキビストによる記録の選定はどのように行われるのですか?
A: アーキビストは、保管や保存にかかる費用に加え、整理、記述、レファレンス・サービスにかかる労働集約的な費用を正当化できるほど価値のある記録を選択する必要があります。
Q:どの記録が永続的な価値を持つかを判断するのが必ずしも容易でないのはなぜですか?
A: 記録の価値を判断するには、その文脈、内容、意義を分析する必要があるため、どの記録が永続的な価値を持つかを判断するのは必ずしも容易ではありません。
Q:アーカイブズの実践を支える学術的な研究はどのように呼ばれていますか?
A:アーカイブズの実践を支える理論や学術的な研究は、アーカイブズ科学と呼ばれています。
Q:アーキビストが管理する情報へのアクセスを提供するために必要な経費には、どのようなものがありますか?
A:アーキビストが管理する情報へのアクセスを提供するための費用として、保管・保存費用、整理・記述・レファレンスサービスなどの労働集約的な費用が挙げられます。
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