ライオンテールマカク(Macaca silenus)—西ガーツ山脈の希少な霊長類
西ガーツ山脈に生息する希少な霊長類「ライオンテールマカク」の生態、特徴、保護状況と繁殖対策をわかりやすく紹介。
ライオンテール・マカク(Macaca silenus)は旧世界のサルである。インドの西ガーツ山脈に生息する。体は主に樹上で生活し、熱帯常緑雨林に依存しているため、生息地の破壊や断片化に非常に敏感である。
ライオンテール・マカクの毛は、黒褐色または黒色で、顔の周りには特徴的な白いたてがみがある。このたてがみ(ライオンのような外見)は本種の名前の由来である。尾の先にはライオンの尾と同じような黒い房がある。頭から尾までの長さは45~60cm、体重は3~10kgで、オスはメスより大型になる傾向がある。四肢は細長く、登攀や枝渡りに適しているため、ほとんどの時間を樹上で過ごす。
日中に活動する昼行性動物であり、熱帯雨林の上層〜中層樹冠で生活する。群れは通常10〜20頭ほどで構成され、繁殖期や採餌時には群れ内で明確な社会的階層が見られる。食性は主に果実だが、若葉、花、種子、昆虫、時に小動物や鳥の卵も食べる。陸上に降りることは稀で、人間活動の影響を受けやすい。一般に他のマカク類と比べて人間を避ける傾向が強い。
繁殖と寿命
繁殖は年に1回程度で、妊娠期間は約170日。通常は1頭の幼獣を産み、母子関係は強く、離乳までに数か月を要する。性的成熟はメスで約4年、オスではやや遅く6〜7年程度。飼育下では20年以上生きる個体も報告されている。
分布と生息地
西ガーツ山脈の低〜中標高の常緑雨林に局所的に分布する。主な生息地にはケーララ州、カルナータカ州、タミル・ナードゥ州の一部域が含まれる。森林の連続性が失われると個体群が孤立しやすく、遺伝的多様性の低下や局所絶滅のリスクが高まる。
保全状況と脅威
- IUCNなどの評価では、ライオンテール・マカクは絶滅危惧種(EN:Endangered)に分類されている。
- 主な脅威は森林伐採、茶園やコーヒー農園などへの土地転換による生息地破壊および断片化である。
- また、道路建設や電線による事故、家畜化に伴う病気の伝播、局地的な狩猟や人間との衝突も問題となっている。
保護対策と取り組み
ライオンテール・マカクは保護区域内に生息する個体群が存在し、いくつかの国立公園や保護区で保護が行われている。多くの動物園や保護施設が種の保存のための繁殖プログラムに参加しており、報告では約368頭が動物園に飼育されているとされる。これらの飼育個体は遺伝的管理や教育プログラム、再導入計画の基盤となることが期待されている。
人間との関係と今後の課題
生息地保全のためには森林の回復、森林パッチ間の回廊整備、持続可能な土地利用の導入、地域コミュニティとの協働が不可欠である。環境教育や調査研究によって生息地の現状を把握し、効果的な保全計画を立てることが求められている。野生個体群のモニタリングと違法な狩猟の取り締まり、地域社会の生計支援を組み合わせた総合的な保護活動が、将来の個体群維持に重要である。


アナマライヒルズのライオンテイルマカク
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