アストロサイト(星状膠細胞)とは:定義・機能・脳と脊髄での役割
アストロサイト(星状膠細胞)の定義・機能を分かりやすく解説。脳・脊髄での役割、血液脳関門サポート、修復やCa2+による神経調節まで最新知見を網羅。
アストロサイトは、脳や脊髄に存在する特徴的な星型のグリア細胞である。しばしば「星状膠細胞」とも呼ばれ、同じく中枢神経系の支持細胞群を指す総称としてアストログリアと呼ばれることがある。形態的には細い突起が放射状に伸び、周囲の神経細胞や血管と密接に接触しているのが特徴である。
分布と割合
脳内におけるアストロサイトの割合は部位や生物種によって異なる。研究によれば、全グリアのうちアストロサイトはおおむね20%〜40%を占めるとされるが、皮質や白質、脳幹などで密度や形態が異なる。ヒトのアストロサイトはマウスなどのげっ歯類より大きく複雑で、多様性(ヘテロジェネイティ)も高いことが示されている。
構造とマーカー
アストロサイトは細胞体から多数の突起を出し、突起の末端は血管に接する「エンドフィート」を形成して血管周囲を覆う。これにより血管と神経組織間の物質交換や血流調整に関与する。実験的には、GFAP(グリア線維性酸性蛋白)、S100β、Aldh1l1などがアストロサイトの代表的マーカーとして用いられる。
主な機能
- 血液脳関門の維持と支持:アストロサイトのエンドフィートは内皮細胞と相互作用して、血液脳関門の機能維持や選択的透過性に寄与する。
- 代謝サポートと栄養供給:アストロサイトはグルコースを取り込み、乳酸に変換して神経細胞へ供給する(いわゆるアストロサイト-ニューロン乳酸シャトル)。このためシナプス活動に必要なエネルギー供給の重要な担い手である。
- イオンと水の恒常性維持:細胞外のK+濃度を取り込んで再分配することで膜電位の安定化を助ける。また、アクアポリン等を介して水の移動にも関与する。
- 神経伝達物質の取り込みと代謝:主に興奮性伝達物質であるグルタミン酸をシナプス間隙から取り込み代謝することで、興奮毒性(エキソトキシシティ)を防ぐ。
- シナプス形成・修飾・除去:発生期や学習時にシナプス形成を促進し、不要なシナプスの刈り込み(プルーニング)にも関与する。補体成分や貪食関連経路を介してシナプスの選択的除去を行う。
- 神経血管連関(ネurovascular coupling):神経活動に応じて局所の血流を調節し、必要な酸素・栄養を供給する役割を果たす。
- 損傷時の修復とグリア瘢痕形成:外傷や炎症時にアストロサイトは活性化(反応性アストロサイト)し、損傷部位を隔離して拡大した二次障害を防ぐ一方で、過度の瘢痕は再生を妨げる場合がある。
カルシウムシグナルとグリオトランスミッション
1990年代半ば以降の研究で、アストロサイトが細胞内外のCa2+シグナルを用いて活動することが明らかになった。アストロサイト内で生じたCa2+波は隣接するアストロサイトやニューロンに影響を与え、ATP、グルタミン酸、D-セリンなどの「グリオトランスミッター」を放出してシナプス伝達を調節することが示唆されている。これらの現象は「トリパルタイド・シナプス(tripartite synapse)」という概念にまとめられ、シナプスは前部・後部シナプス要素とアストロサイトの協調で機能すると考えられている。
反応性アストロサイトと病態
脳や脊髄の損傷、感染、変性疾患においてアストロサイトは形態と分子発現を変化させる(反応性アストロサイト化)。これにより保護的な因子の産生や炎症性シグナルの放出が起こり、損傷の拡大防止に役立つ反面、慢性的な反応は組織修復や軸索再生を阻害することがある。アストロサイトの異常は以下の疾患と関連することが示されている:
- アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患(炎症や代謝異常への寄与)
- てんかん(興奮性伝達物質の処理異常やK+バッファリング障害)
- 筋萎縮性側索硬化症(ALS)(アストロサイト由来の毒性因子が運動ニューロンに影響)
- アレクサンダー病など、GFAP変異に伴う白質疾患
- グリオーマ(グリア系腫瘍)の発生や進展にも関与する
発生と多様性
アストロサイトは発生過程で放射状グリアなどから分化し、地域ごとに異なる形態と機能を獲得する。最近のオミクス解析やイメージング技術により、アストロサイトは一律の細胞群ではなく、多様な遺伝子発現プロファイルと機能的亜型を持つことが明らかになっている。この多様性は脳領域特異的な機能や疾患における役割を理解するうえで重要である。
研究の意義と将来展望
かつてはニューロンの“支持役”と見なされがちだったアストロサイトは、現在では脳機能の能動的な調節者として注目されている。Ca2+シグナルやグリオトランスミッションの解明、アストロサイトの亜型・発達・反応性の理解は、神経疾患の新しい治療標的の発見につながる可能性がある。将来的には、アストロサイトを標的とした薬理学的介入や細胞療法が、神経再生や慢性神経疾患の改善に貢献することが期待される。
以上のように、アストロサイトは単なる“脳の接着剤”以上の多機能な細胞であり、神経回路の形成・維持・可塑性・保護に深く関わっている。現在進行中の研究により、その多面的な役割の全貌がさらに明らかになるだろう。


生きている大脳皮質で、神経細胞(緑)に混じってアストロサイト(赤・黄)が存在する
質問と回答
Q:アストロサイトとは何ですか?
A: アストロサイトは、脳や脊髄に存在する星形のグリア細胞です。
Q: アストロサイトは脳内グリアに占める割合は?
A:アストロサイトは、脳のグリア全体の20%~40%を占めています(部位によって割合は異なります)。
Q: アストロサイトはどのような働きをするのですか?
A: アストロサイトは、血液脳関門の内皮細胞を助ける、神経組織に栄養を供給する、細胞外イオンのバランスを保つ、外傷後の脳や脊髄の修復を助けるなどの機能を有しています。
Q: 1990年代半ば以降、アストロサイトについてどのような重要な発見があったのでしょうか?
A:1990年代半ばからの研究で、アストロサイトがCa2+イオンを放出し、脳の機能を調整していることが明らかになり、神経科学における重要な研究分野となりました。
Q: アストロサイトは他にどんな名前で呼ばれているのですか?
A:アストロサイトは、アストログリアとも総称されています。
Q: アストロサイトは体のどこにあるのですか?
A:アストロサイトは、脳と脊髄に存在します。
Q:アストロサイトはなぜ神経科学の研究に重要なのですか?
A:アストロサイトは、Ca2+イオンを放出し、脳の機能を調整する働きがあるため、神経科学の研究において重要です。
百科事典を検索する