原子間力顕微鏡(AFM)とは|原理・動作モード・応用ガイド
原子間力顕微鏡(AFM)の基礎から原理・接触・タッピングなど動作モード、測定手法とナノ・生体応用までを図解でわかりやすく解説。

原子間力顕微鏡(AFM)は、表面のトポグラフィ(凹凸)や局所的な物性をナノメートル〜原子スケールで観察・測定できる走査型顕微鏡の一種です。顕微鏡の一種として、表面の高低や力学的・電気的性質を直接「感じ取る」ことでイメージを作成します。走査型電子顕微鏡(SEM)と同じく高分解能観察が可能ですが、原理や適用条件が異なります。工学・材料科学・生物学・ナノテクノロジー分野(ナノテクノロジーでの解析)で広く用いられています。
装置の基本構成と測定原理
AFMの代表的な構成要素は次の通りです。
- 極細の探針(チップ)が付いたカンチレバー(梁)
- カンチレバーのたわみを検出するためのレーザーと位置感知型光検出器(PSD)
- 試料を精密に移動させるピエゾスキャナ(XYZ制御)
- カンチレバーを駆動・フィードバック制御する電子回路
原理:探針先端と試料表面の間に働く力(ファンデルワールス力、静電力、磁気力、接触による弾性力など)によってカンチレバーがわずかにたわみます。レーザーをカンチレバーに反射させ、その反射光の位置変化をPSDで検出することでカンチレバーの曲がり量を高感度に測定し、フィードバックで探針高さを制御しながら走査して表面像を再構成します。
性能指標:垂直(高さ)分解能は原理的にピコ〜ナノメートル領域まで可能で、横方向分解能は探針先端半径に依存します(典型的には数ナノメートル〜十数ナノメートル)。
代表的な動作モード
AFMには複数の動作モードがあり、目的や試料に応じて使い分けられます。
- 接触モード(Contact mode):探針が試料表面と常に接触した状態で走査し、カンチレバーの静的なたわみを検出します。高分解能だが、横方向の摩擦やせん断力で柔らかい試料を損傷する場合があります。
- タッピングモード(Tapping / Intermittent-contact mode):カンチレバーを共振で振動させ、先端が周期的に表面に「タップ」する間欠接触モードです。接触モードに比べ試料やチップの損傷が少なく、生物試料や柔らかいポリマーに適しています。振幅変化をフィードバックに使って高さを制御します。
- 非接触モード(Non-contact mode):探針を試料表面からわずかに離して振動させ、引力領域(吸引力)の変化を検出します。吸着層の影響などがあるため、空気中での安定運用は難しいことがありますが、摩耗を避けられます。
- 動的モードの亜種:振幅変調(AM)や周波数変調(FM)など、振動特性を利用した多様な手法があります。
- フォーススペクトロスコピー:試料表面の特定点で探針を上下させ、力−距離曲線を取得して粘弾性、接着力、弾性率などの定量評価を行います。
AFMで測定できる物理量と拡張モード
- 表面トポグラフィ(高低差)
- 弾性率(ヤング率)や粘弾性の局所測定(Force modulation、nanoindentation)
- 粘着力・摩擦力(Lateral force microscopy)
- 導電性(導電AFM, C-AFM)や局所的な電流マッピング
- 表面電位(Kelvin probe force microscopy, KPFM)
- 磁性(磁気力顕微鏡, MFM)や圧電応答(PFM)などの特殊モード
AFMの長所と短所
- 長所:
- 高い垂直分解能(原子・亜原子スケールまで到達可能)
- 真空だけでなく、空気中や液中で動作可能 → 生体サンプルを生理条件に近い環境で観察できる
- 試料の導電性が不要(SEMのような導電コーティングが不要)
- 多様な物性(機械的、電気的、磁気的)を局所測定できる
- 短所:
- 走査速度が遅く、大面積の観察に時間がかかる
- 探針先端の形状による「先端効果(チップコンボリューション)」で横方向の形状が歪むことがある
- 柔らかい試料では接触で変形・損傷するリスクがある
- チップ摩耗や汚染による測定の変動が起こりやすい
実際の利用例(応用)
- 材料表面のナノ構造解析(薄膜、半導体、触媒)
- 生物試料の表面観察(細胞膜、タンパク質、DNAの集合体)—液中観察が可能
- 機械的特性の局所測定(ナノインデンテーション)
- ナノ加工・ナノ操作(探針を使った局所変形や物質移動)
- 機能性材料の局所電気・磁気特性評価(C-AFM、KPFM、MFM)
測定上の注意点とベストプラクティス
- チップ選定:先端半径、材質(シリコン、窒化シリコン、導電性コーティングなど)を用途に合わせて選ぶ。
- スキャン条件の最適化:走査速度、ピエゾの範囲、フィードバックゲイン、振幅やセットポイントを適切に設定することでアーティファクトを低減する。
- 環境管理:温度・振動・空気中の水分や掃除機など外乱を抑えると高分解能が得やすい。
- データ解釈:高さ情報は正確だが、横方向の幅はチップ形状の影響を受けるため補正や別手法との併用を検討する。
まとめると、AFMは表面のナノスケール観察と局所物性評価に強力なツールであり、真空が不要で液中観察が可能という特性から生物・材料の研究に幅広く応用されています。一方で、測定条件やチップの特性に依存する点、走査速度・試料損傷のリスクなどを理解したうえで運用することが重要です。
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質問と回答
Q:原子間力顕微鏡(AFM)とは何ですか?
A: 原子間力顕微鏡(AFM)は、表面上の原子の写真を得ることができる顕微鏡の一種です。原子一個一個を見ることができ、ナノテクノロジー分野でよく利用されています。
Q: AFMはどのように機能するのですか?
A: AFMは、カンチレバービームに取り付けられた極細の針によって作動します。針の先端は、画像化される材料の隆起や谷の上を走り、表面を「感じる」ことができます。このとき、カンチレバーがたわみ、針先が上下する。基本的な構成としては、カンチレバーにレーザーを斜めに照射し、レーザー光の入射角を変えることでカンチレバーのたわみを直接測定することが可能である。これにより、機械で撮像している分子の像が見える構成になっています。
Q: AFMは走査型電子顕微鏡(SEM)と比べて、どのような利点がありますか?
A: AFMはSEMよりも高い分解能を持ち、SEMのように真空中で動作させる必要がなく、大気中や水中で動作させることができるため、生きた細胞のような生体試料にダメージを与えることなく使用することができます。
Q: AFMの動作モードにはどのようなものがありますか?
A: AFMの動作モードには、探針を表面上で移動させてカンチレバーのたわみを測定するコンタクトモード、探針を表面上で叩いて移動させるタッピングモード、間欠接触モード、非接触モード、ダイナミックモード、スタティックモードなどがあり、これらは上記のタッピングモードとコンタクトモードのバリエーションであることが多いです。
Q:タッピングモードとコンタクトモードの違いは?
A: タッピングモードとコンタクトモードの違いは、タッピングモードを使用した場合、針が表面を横切るのではなく、移動しながら表面を叩くため、針が表面を横切るときに表面に当たらないように、針が隆起を感じたときに表面から遠ざかり、生体サンプルなどの柔らかい表面にダメージを与えにくくなることです。
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