嗅球(脳の嗅覚中枢)とは|構造・機能・役割をわかりやすく解説

嗅球の構造・機能・役割を図解でわかりやすく解説。嗅覚の仕組みや脳内ネットワーク、臨床的意義まで初心者にも理解できる入門ガイド。

著者: Leandro Alegsa

嗅球は、脊椎動物の前脳の一部である。嗅覚(においを感じること)に働く。嗅球は頭蓋底近く、嗅神経(嗅覚受容体ニューロンの軸索)が集まる部位に位置し、におい情報の最初の中枢処理を担う。

嗅球は、感覚入力源(嗅覚受容体ニューロンからの軸索)と出力源(僧帽細胞軸索)が1つずつある。そのため、フィルターとして機能していると考えられている。しかし、嗅球は、扁桃体、新皮質、海馬、小脳座、黒質などの脳部位からも「トップダウン」の情報を得ているのである。これらの遠心性入力(遠方から来る神経線維)は、注意や学習状態、感情状態に応じて嗅覚処理を調整する重要な役割を持つ。

その機能の範囲は、おそらく以下のようなものでしょう。

構造(組織学的特徴)

  • 層構造:嗅球は一般にいくつかの層に分かれ、上から順に臭糸層(glomerular layer)、外網様層(external plexiform layer)、僧帽細胞層(mitral cell layer)、内網様層(internal plexiform layer)、顆粒層(granule cell layer)などを含む。各層は異なる細胞集団とシナプスを含む。
  • グロメルル(glomeruli):嗅覚受容体ニューロンの軸索は同じ受容体タイプごとに特定のグロメルルに投射し、いわゆる「受容体ごとのマップ」を形成する。これがにおいの初期表現(化学地図)を作り出す基盤となる。
  • 主要な細胞型:僧帽(mitral)細胞、房状(tufted)細胞、顆粒(granule)細胞、傍糸球(periglomerular)細胞などがあり、それぞれ入力の受け取り、局所回路での抑制・増幅、出力経路の形成に寄与する。

機能と神経回路の役割

  • 受容体からの入力統合:嗅覚受容体ニューロンからの信号はグロメルルで整列・統合され、僧帽・房状細胞に伝えられる。これにより、においの種類に対応した空間的な活動パターンが生まれる。
  • 側抑制とコントラスト強調:傍糸球細胞や顆粒細胞による抑制性回路が働き、類似したにおい刺激の区別(パターン分離)やノイズの除去が促進される。
  • 時間符号化と振動同期:嗅球ではシータ(θ)やガンマ(γ)帯域の振動が観測され、これらの同期化がにおい情報の符号化や情報伝達タイミングを調節すると考えられている。
  • 濃度不変性と識別:同じ匂いでも濃度が変わると入力強度は変わるが、嗅球の回路はしばしば濃度の違いに頑健な「匂いの同一性」を保つように働く。
  • トップダウン調節:扁桃体や嗅皮質などからの遠心性入力や、基底前脳・青斑核(ノルアドレナリン)・縫線核(セロトニン)などの神経調節性入力により、注意、情動、学習状態に応じて感度や選択性が変化する。

投射経路(出力)と連携する脳部位

  • 僧帽・房状細胞の軸索は側嗅索(lateral olfactory tract)を経て、嗅覚皮質(前嗅皮質・嗅周囲野・被殻近傍の海馬傍回・扁桃体など)に投射する。ここで感覚的・情動的・記憶的な処理が進む。
  • 扁桃体へは匂いと情動を結びつける回路があり、危険や食欲、性行動などの行動調節に直結する。

可塑性と再生

  • 成人の神経新生:多くの哺乳類では、顆粒細胞や傍糸球細胞の一部が脳室下帯(subventricular zone)から新生し、吻側移動流(rostral migratory stream)を通って嗅球へ供給される。新生ニューロンは学習や匂い記憶の形成に寄与すると考えられている。
  • 経験依存的可塑性:嗅覚学習や匂いの条件付けによりシナプス効率や回路構成が変化し、嗅覚識別能が向上することが示されている。

臨床的・行動的意義

  • 嗅覚障害(嗅覚脱失・嗅覚減退・幻嗅など)は生活の質に大きく影響する。嗅覚脱失は感染症(例:COVID-19)や頭部外傷でよく見られ、またパーキンソン病やアルツハイマー病の初期症状として報告されることがある。
  • 嗅球の機能障害は味覚の低下、食欲変化、危険物(腐敗臭、ガス)の検出困難などの行動的問題に直結する。

種差と進化的観点

  • 嗅球の大きさや構造は種によって大きく異なる。犬やげっ歯類では嗅球が大きく発達し嗅覚依存度が高い。一方で、霊長類では嗅球の相対的なサイズが小さくなっていることが多い(視覚優位化の影響)。

以上のように、嗅球は単なる受動的な中継点ではなく、におい情報の初期処理、コントラスト強調、時間的・空間的符号化、学習・記憶との結びつき、さらには情動や注意による調節を受ける能動的な情報処理装置である。嗅覚系の理解は、行動神経科学や臨床医学においても重要な分野である。

マウス主嗅球の細胞核の画像。 縮尺は上から下へ約2mmZoom
マウス主嗅球の細胞核の画像。 縮尺は上から下へ約2mm



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