オートファジーとは?仕組み・役割・生理的意義と大隅良典の研究

オートファジーの仕組み・役割を図解でわかりやすく解説。生理的意義や大隅良典氏のノーベル研究成果まで詳述。

著者: Leandro Alegsa

オートファジー(「自分を食べる」という意味)は、細胞の基本的なメカニズムの1つで、不要・損傷した細胞小器官やタンパク質を分解して再利用する自己貪食の過程です。オートファジーによって細胞は恒常性(ホメオスタシス)を維持し、飢餓やストレス、病原体感染などさまざまな環境変化に適応します。

基本的な仕組み

代表的な経路は次の流れで進行します。

  • 隔離膜の形成(初期化):細胞内の特定領域に膜が形成され、標的物を包み込む準備をします。
  • オートファゴソームの形成:隔離膜が伸長・閉鎖して二重膜の袋、すなわちオートファゴソーム(二重膜の小胞)を作ります。
  • 融合と分解:オートファゴソームは最終的にリソソームと融合し、内部の内容物がリソソーム酵素で分解されます。分解産物(アミノ酸や脂肪酸など)は細胞内で再利用されます。

オートファジーの種類

  • マクロオートファジー:上記のオートファゴソームを介する一般的な経路。通常「オートファジー」と呼ばれるのはこれを指します。
  • マイクロオートファジー:リソソーム膜が直接小胞を陥入させて取り込む方式。
  • シャペロン媒介性オートファジー(CMA):特定の配列を持つタンパク質がシャペロンに認識され、リソソーム膜上の受容体を介して選択的に取り込まれる方式。

分子機構と調節

オートファジーは多くのタンパク質群(ATG遺伝子産物など)によって制御されます。栄養状態やエネルギー状態を感知する経路が特に重要です。

  • mTOR(機械的標的オブラパマイシン)経路:栄養・成長因子が豊富なときにmTORが活性化し、オートファジーを抑制します。逆に飢餓や栄養不足ではmTORが抑制され、オートファジーが誘導されます。
  • AMPK:細胞内ATPが低下するとAMPKが活性化し、mTORを抑制してオートファジーを促進します。
  • ULK1複合体やクラスIII PI3K複合体:隔離膜の形成やオートファゴソームの伸長を駆動する中心的な分子群です。LC3(Atg8に相当)はオートファゴソーム膜に結合して膜の形成や選択性に関わります。

選択的オートファジー

オートファジーは必ずしも非選択的ではなく、特定の標的を選んで分解する「選択的オートファジー」もあります。代表例:

  • ミトファジー(mitophagy):損傷したミトコンドリアの排除。
  • キセノファジー(xenophagy):細胞内に侵入した病原体の除去。
  • アグレフォファジー(aggrephagy):凝集したタンパク質の除去。

生理的意義と病態での役割

  • 飢餓応答・エネルギー供給:栄養欠乏時に細胞成分を分解してエネルギーや代謝材料を供給し、生存を助けます。
  • タンパク質・オルガネラの品質管理:誤折りたたみタンパク質や損傷した小器官を除去して細胞機能を維持します。神経変性疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病など)ではオートファジー障害が関与すると考えられています。
  • 免疫・感染防御:病原体の分解や抗原提示に寄与します。
  • がん:二面的な役割があります。発がん初期にはがん化抑制的に働く一方、確立した腫瘍ではストレス耐性を高め、治療抵抗性を助けることがあります。
  • 老化と寿命:多くのモデル生物でオートファジー活性の維持が長寿に寄与することが示されています。

臨床応用と研究動向

オートファジーを標的にした薬剤開発は活発です。代表的な操作法としては、mTOR阻害剤(例:ラパマイシン系)でオートファジーを誘導する方法や、クロロキンやヒドロキシクロロキンのようにリソソームの機能を阻害してオートファジーの最終段階を抑える方法があります。がん、神経変性疾患、感染症、代謝疾患などへの応用が検討・臨床試験されていますが、作用が複雑なため慎重な評価が必要です。

歴史と大隅良典の業績

「オートファジー」という名称は、1963年にベルギーの生化学者Christian de Duveが提唱しました。1990年代には酵母を用いた遺伝学的解析によってオートファジーに関わる遺伝子群(ATG遺伝子)が同定され、分子機構の解明が飛躍的に進みました。日本の研究者である大隅良典氏は、酵母を用いた変異株スクリーニングと分子解析で多数のATG遺伝子を同定し、オートファジーの普遍的な仕組みを明らかにしました。この業績により、大隅氏は2016年にノーベル医学・生理学賞を受賞しました。

オートファジー研究は基礎から臨床へと広がりつつあり、今後も生命現象の理解や疾患治療への応用が期待されています。

(A)オートファジーの模式図、(B)ミバエの幼虫の脂肪体におけるオートファジー構造の電子顕微鏡写真、(C)飢餓状態のマウスの肝細胞における蛍光標識されたオートファゴソームZoom
(A)オートファジーの模式図、(B)ミバエの幼虫の脂肪体におけるオートファジー構造の電子顕微鏡写真、(C)飢餓状態のマウスの肝細胞における蛍光標識されたオートファゴソーム

質問と回答

Q:オートファジーとはどういう意味ですか?


A:オートファジーは「自分を食べる」という意味です。

Q: オートファジーの目的は何ですか?


A: オートファジーの目的は、働かない、あるいは必要としない細胞の部分を制御して分解することです。

Q: オートファジーによって、細胞はどのように分解されるのですか?


A: 対象となる細胞部分は、オートファゴソーム内で他の細胞部分から分離され、リソソームと融合し、内容物が分解され再利用されます。

Q: 細胞成分の分解が細胞の生存を促進するのは、どのような極端な場合か?


A:極端な飢餓状態の場合、細胞成分の分解は、細胞のエネルギーレベルを維持することで細胞の生存を促進します。

Q: 「オートファジー」という言葉は誰がいつ作ったのですか?


A:1963年にベルギーの生化学者クリスチャン・デ・デュベが「オートファジー」という言葉を作りました。

Q: オートファジー関連遺伝子はいつ酵母で発見されたのか?


A:酵母のオートファジー関連遺伝子は、1990年代に同定されました。

Q:オートファジーの研究で、2016年のノーベル生理学・医学賞を受賞したのは誰ですか?


A:日本の研究者である大隅良典氏が、オートファジーの研究で2016年のノーベル生理学・医学賞を受賞しました。


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