リチャード・バックマンは、アメリカの作家スティーヴン・キングが用いた、もっともよく知られた筆名である。キングは、自分の本名以外で作品を出し、異なる作風や刊行のしかたを試すためにこの人物像を作り上げた。バックマン名義の作品は、キングの一般向け作品の一部よりも、より陰鬱で、荒削りで、しかも制御のきいた印象を持つことが多い。そこでは、あからさまな超自然ホラーよりも、普通の人間、社会的圧力、ディストピア的な要素や心理的主題が前面に出る。名前そのものも、別個の労働者階級の作家のものとして提示された。

特徴と主題

バックマン名義の小説は、一般に簡潔な文体、救いのない舞台設定、そして道徳的な曖昧さを特徴とする。繰り返し現れる要素としては、追い詰められた主人公、制度や社会の崩壊、そして日常的な圧力がどのように極端な行為へつながるかを探る筋書きがある。読者や批評家は、キングのより有名な作品の多くに見られるような寄り道が少ない、切り詰めた語り口をこの名義に見いだしてきた。

経緯と刊行

キングがこの筆名を最初に使ったのは、1つの名前で本を出しすぎて市場をあふれさせるのを避けるためであり、また、新人作家が既存のブランドなしで成功できるかを試すためでもあった。この仕掛けは数年間秘密にされていたが、文献調査や文体の比較によって結びつきが明らかになり、その事実の発覚は売り上げや世間の見方に影響を与えた。のちにキングはエッセイやインタビューでこの実験を認め、動機を説明するとともに、2つの作家的なアイデンティティの違いについて考察している。

代表作と映像化

バックマン名義に結びつけられる本には、いくつかの長編小説と短編のまとまりがあり、後にそれらが1冊にまとめられたものもある。バックマン作品のいくつかは舞台、映画、映像作品に翻案されており、とりわけ1作は、現実の事件を受けてキングが刊行停止を求めたことで、さらに注目を集めた。バックマン作と一般にされる作品の例は次のとおりである。

  • Thinner — 復讐を描いた硬質な物語で、映画化された。
  • The Long WalkRoadwork — ディストピア的、あるいは強迫的な主題を持つ小説。
  • Rage — 学校をめぐるスリラーで、後に暴力事件との関連からキングが流通停止を望んだ。
  • The Regulators — つながりのある登場人物やモチーフを持つキングの小説と対になる作品として、バックマン名義で刊行された。

遺産と位置づけ

バックマンの実験は、作者のアイデンティティ、マーケティング、創作上の自由を考えるうえで、今なお重要な事例とされる。どれほど名前が文学的成功に寄与するのかという議論を促し、またキングに、自分の本名ではためらわれたかもしれない文体や刊行ペースを試す機会を与えた。今日では、バックマン作品群はキングの全作品群の一部であると同時に、語り口と意図において独立したまとまりとしても見なされている。より軽快ではなく、より悲観的な対照をキングの大作に求める読者には、バックマン作品がしばしば勧められる。

文学上の別名という概念についてはペンネームを、ジャンルの背景についてはホラー小説を、そしてこの人物像の背後にいる作家についてはスティーヴン・キングを参照。