スライディング(軽侮)とは:城の意図的破壊 — 定義・歴史・主な事例
軽侮(スライティング、英: slighting)とは、重要な建物、特に軍事的・象徴的価値を持つ城や要塞を、相手に再利用されないように意図的に破壊・無力化する行為を指します。中世では、戦争や内乱の際に城が攻撃者や支配者によって部分的または全面的に破壊されることがありました。城は富や権力の象徴であり、その所有者にとって誇りであるため、制圧側が城を軽んじる(破壊する)ことで政治的・軍事的効果を得ようとしたのです。
定義と目的
- 目的:敵の拠点として再使用されるのを防ぐ、反抗や反乱の懲罰・抑止、支配権を示す象徴的行為、または軍事維持費の削減など。
- 意図的な性格:偶発的な戦闘被害とは区別され、計画的・命令に基づく破壊である点が特徴です。
- 対象:城郭、城壁、塔、橋、城内の戦略的建造物(門、落とし穴、跳ね橋の機構など)。
手法(一般的な破壊方法)
- 部分的破壊:城門や壁の一部を崩して出入りを妨げないようにするが、防御力は低下させる。
- 徹底的破壊:塔や大規模な壁面を取り壊し、再防備が不可能になるまで破壊する。
- 焼却・瓦解:屋根や木造部材を焼き払って居住不能にする。
- 凹部化・埋め戻し:壕(ほり)を埋める、橋や機構を破壊して使えなくする。
- 近世以降は火薬の使用が増え、壁や塔を爆破することも行われました。
歴史的背景
軽侮は中世以降に見られる行為ですが、特に17世紀のような内戦や中央集権化の時代に頻発しました。火器と砲兵術の発達により城の軍事的有用性が下がる一方で、依然として城は政治的・象徴的意味が大きく、支配者は敵対勢力の拠点を確実に無力化するために軽侮を命じました。
主な事例
- イングランド内戦(17世紀):議会派は王党派の城を再利用できないように多数の城を軽んじ、結果としてコルフェ城(Corfe Castle)やケニルワース城(Kenilworth Castle)などが大きな被害を受け、廃墟化しました。これらは現在も廃墟として保存・観光資源になっています。
- その他の地域でも、反乱や支配の移行に伴い城郭が意図的に破壊される例が繰り返されました(ヨーロッパ各地、近世の植民地支配下など)。
- 城主自身による先制的破壊:攻められる恐れがある場合、城主が自らの城を部分的に破壊して敵の利用を防ぐこともありました。
影響と保存
- 軽侮によって生じた廃墟は、その後の歴史的景観や観光資源となることが多く、考古学的研究の対象にもなります。
- 一方で、本来の建築史や文化財としての価値が失われることも多く、保存・復元の議論を生んでいます。
- 現代では、文化財保護の観点から意図的破壊は国際法や国内法で問題視されることがあります(戦時の文化財保護条約等)。
見分け方(考古学的指標)
- 壁の一部だけが集中的に破壊されている痕跡や、内部構造が意図的に破壊された形跡。
- 焼け跡や火災による木材痕、火薬を用いた破壊では特有の崩落形態が確認される場合があります。
- 文書記録や命令書が残っていることもあり、史料と遺構を照合することで「軽侮」であると判断されることが多いです。
軽侮は単なる軍事行為ではなく、権力関係や政治的メッセージを伴う行為でした。破壊された城は、その後の歴史や地域社会に長く影響を残し、今日では歴史教育・観光・文化財保護の重要なテーマとなっています。


ヘルムスレイ城(ヨークシャー州)は、1644年に東塔の半分を取り壊し、軽んじられました。