ストレンジ物質とは?定義・性質と中性子星コアでの存在

ストレンジ物質の定義と性質を解説、中性子星コアでの存在可能性と最新知見をわかりやすく紹介。

著者: Leandro Alegsa

ストレンジ物質は、クォークを主成分とする物質であるクォーク物質の一種である。ストレンジクォーク物質はアップクォークダウンクォーク、ストレンジクォークからなる「液体」であり、非ストレンジクォーク物質がアップクォークとダウンクォークしか含まないのに対し、ストレンジクォーク物質にはストレンジクォークもあることから、非ストレンジクォーク物質とは異なっている。ストレンジクォーク物質は、中性子星のコアに存在すると考えられている。ストレンジマターは、中性子星の中心部のような極めて高い密度にのみ存在する。チャームクォークでできたクォーク物質「チャーム物質」は可能かもしれないが、もっと高い密度でしか存在しない。

ストレンジ物質とは(定義と概念)

ストレンジ物質(strange matter)は、アップ(u)・ダウン(d)・ストレンジ(s)という三種類の軽いフレーバーのクォークが豊富に混ざった、バルクのクォーク物質を指します。通常の原子核はバリオン(陽子・中性子)で構成され、これらはクォークが束縛された状態ですが、ストレンジ物質はクォークが束縛を越えて「自由化」した高密度相で、流体のように振る舞うことがあります。

性質(物理的特徴)

  • 化学平衡と電荷中性:ストレンジ物質は弱相互作用によるβ平衡(u↔d↔s変換)と電荷中性を満たすため、電子やミューオンとともに平衡状態を取ります。
  • エネルギー/密度特性(方程式状態:EOS):クォーク間の強い相互作用とクォーク質量(特にsクォークの有効質量)が圧力・エネルギー密度の関係を決め、これが中性子星の質量–半径関係に直接影響します。モデルとしてはMITバッグモデルやNJLモデル、最近では密度汎関数を用いる研究があります。
  • 色超電導相:低温高密度ではクォークがペアを形成して色超伝導(color superconductivity)状態になる可能性があり、特にu,d,sクォークが対称に絡む「色フレーバーロック(CFL)相」はしばしば議論されます。
  • 安定性の可能性:一部の理論では、ストレンジ物質は通常の核物質よりもエネルギー的に安定(あるいは準安定)であり、巨大なバルクでは「絶対安定」になる可能性(Bodmer–Witten仮説)が提起されています。

中性子星コアでの存在と影響

中性子星は中心で核子間隔が狭まり、核子が崩壊してクォークが自由化する条件が整う可能性があります。ストレンジ物質はそのような極端に高密度な環境で生じる候補の一つです。

  • 相転移:中心部で核子相からクォーク相(ストレンジ物質を含む)への相転移が起きると、星の内部構造、圧力分布、断熱性などが変化します。
  • 最大質量と半径:ストレンジ物質の方程式状態次第で、中性子星の最大質量(観測された約2太陽質量のパルサーなど)を説明できるかが決まります。極端に軟らかいEOSだと最大質量が小さくなり、観測と矛盾することがあります。
  • 冷却とニュートリノ放射:クォーク相では効率的なクーロン・ウィークな反応が可能になり、放射冷却やニュートリノ放出に影響を与え、若い中性子星の温度履歴を変える可能性があります。
  • 回転と振動(観測信号):星震や回転の揺らぎ、さらに合体時の重力波波形にも影響が及び得ます。重力波観測(例:GW170817)やX線のパルスプロファイル(NICER)からEOSの制約が得られ、ストレンジ物質の存在可能性を評価できます。

ストレンジレットと安定性仮説

ストレンジマターが十分に安定であれば、微小な塊(ストレンジレット)が形成されるかもしれません。これらは宇宙線や重イオン衝突で生成されうると考えられ、質量数や電荷比が通常核とは異なる独特のシグネチャを持ちます。Bodmer–Witten仮説は「ある範囲のパラメータでu–d–sクォークのバルクが最も安定である」とするもので、もしこれが正しければ通常の中性子星の中心はストレンジ星(strange star)になり得ます。ただし、多くのモデルパラメータ(バッグ定数、クォーク質量、相互作用強度)に依存し、確定的ではありません。

観測的・実験的探索

  • 天文観測:高質量パルサー(∼2M☉)の存在、NICERによる質量–半径測定、合体中性子星の重力波(GW)データはEOSを制約し、極端なストレンジ物質モデルの一部は既に除外されていますが、多くの余地が残ります。
  • 重イオン衝突実験:RHICやLHCといった加速器実験では高温低密度領域のクォーク・グルーオンプラズマが作られますが、低温高密度のストレンジ物質とは条件が異なります。それでもストレンジレット探索やsクォーク生成についての実験的探索が行われています。
  • 地上・宇宙線検出器:ストレンジレットが宇宙を飛んで地球に到達する可能性を期待し、検出器や古地質試料の分析で探索が行われてきましたが明確な検出はありません。

理論的不確実性と今後の展望

ストレンジ物質の存在を巡る最大の課題は、強い相互作用(QCD)を高密度で精密に扱う難しさです。摂動的QCDは高密度極限でのみ有効で、実際の中性子星中心の密度域では多くの近似やモデルパラメータに依存します。今後の展望としては:

  • より高精度な天文観測(重力波、X線パルス解析、電磁波観測)によるEOS制約の強化。
  • 密度領域での理論的進展(非摂動的QCD、格子QCDの新技術や有効模型の改良)。
  • 重イオン実験での新たな検索手法と宇宙線観測の継続。

まとめ

ストレンジ物質はu,d,sクォークを主成分とする高密度のクォーク相で、中性子星コアに存在する可能性があります。存在すれば星の構造、冷却、合体時の重力波などに重要な影響を与えうる一方で、理論的・観測的に未解決の点が多く、今後の観測と理論の両面での進展が期待されています。



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