シノニム(分類学)とは|定義と学名・有効名の違い
分類学における同義語は、通常の同義語と同様に、学術的な分類において同じものを表す名称が2つ(あるいはそれ以上)存在することを指します。語としての使われ方は一般的な同義語と同じですが、分類学では名称の成立過程や命名規約が関わるため扱いがより厳密です。例えば、猫にはいくつかの学名が用いられてきました。Felis silvestris catus、Felis catus、Felis catus domesticaなどは、同じ生物を指す別名(同義語)として文献に現れますが、どれを正式に用いるかは命名規約と分類学的判断に依存します。
基本的な区別:有効名・正しい名前・受容名
分類学の文脈では、いくつかの用語が混同されやすいので整理します。有効名(validly published name)は、その学群の命名規約に従って有効に発表された名称を指します。植物では「有効に発表された名前(有効名)」、動物ではICZNの規定に従って「有効名」と言います。これとは別に、正しい名前(correct name)や受容名(accepted name)という概念があり、これは同一の分類単位について規約と優先順位を考慮したうえで「現在用いるべき一つの名前」を指します。植物学と動物学で用語や扱いが多少異なります。
植物学における扱い
植物学では、「シノニム」という言葉が特別な意味を持っています。命名規約(国際藻類・菌類・植物命名規約:ICN)では、ある単位につき「正しい名前(correct name)」が1つ定まります。つまり、ある種については複数の有効に発表された名前が存在しても、規約と優先順位に基づいて「正しい名前」が決まります。その決定に含まれない他の名前がシノニム(同義語)です。例えば、ヤシの木の一種の正しい名前はDaemonorops dracoで、Calamus dracoは同じ種のシノニムである、といった扱いです(注:学者やデータベースにより受容名が異なる場合があります)。
さらに植物学では、シノニムは性質によって区別されます。主な区分は以下の通りです:
- 同型シノニム(homotypic / nomenclatural synonym):同じタイプ標本に基づく別名。例えば、属の変更に伴う組合せ変更(basionym に基づく新組合せ)。命名学的な観点で同一の基準を持つため、タイプは同じです。
- 異型シノニム(heterotypic / taxonomic synonym):別のタイプ標本に基づいて記載されたが、後に同一種と見なされた名前。分類学的判断(種の統合など)により生じます。
動物学における扱い
動物学では、国際動物命名規約(ICZN)に従い、同一の分類単位には通常「有効名(valid name)」が1つあり、他の名前はすべてシノニム(同義語)として扱われます。動物学でもシノニムはさらに分類できます:
- 客観的同義語(objective synonyms):同じタイプ材に基づく名前同士。名称学的に避けられない重複。
- 主観的同義語(subjective synonyms):異なるタイプ材に基づくが、後の研究で同一種・同一属と判断された場合に生じる。同定や分類学者の解釈に依存します。
同義語が生じる主な理由
- 同じ生物が別々の研究者に独立して記載され、別名が与えられる(同時記載や独立記載)。
- 分類学的判断の変化:分割(split)や統合(lump)により、以前の名前がシノニムになる。
- 属の移動:種を別の属に移すと、新しい組合せ名が生じ、旧名が同型シノニムになることがある。
- タイプ標本の再検討や新しい遺伝情報の導入により、種の概念が変わること。
表記・引用の実務的注意
- 学名は通常イタリック体で表記し(属名と種小名)、著者名と記載年を付すことが多い(例:Felis catus Linnaeus, 1758)。
- 植物学では原記載名(basionym)を明示する場合があり、新組合せには「(原著者) 新著者」形式が用いられます。
- 文献では同義語を「syn.」や「=」で示すことがあるが、明確に区別するために「同型シノニム/異型シノニム」「客観的/主観的同義語」などの注記を付けるとよい。
データベースと参考情報
分類名やシノニム情報は、IPNI、The Plant List、Tropicos、GBIF、Catalogue of Life、ITIS、WoRMSなどのデータベースで確認できます。データベースによって受容名(accepted name)やシノニムの扱いが異なることがあるため、特に学術的利用では出典と命名規約(ICN / ICZN)を確認してください。
まとめると、分類学におけるシノニムは単なる言葉の同義ではなく、命名の成立過程、タイプ標本、優先権や規約に基づく厳密な概念です。植物学と動物学で用語や細かい扱いが異なる点に注意してください。