ベルギーのシンセポップグループ、Telexは1978年にMarc Moulin、Dan Lacksman、Michel Moersによって結成されました。メンバーはそれぞれ音楽的背景が異なり、Marc Moulinはジャズやフュージョンの経歴を持つキーボーディスト、Dan Lacksmanはエンジニア/プロデューサーとして知られ(Synsound Studioの運営などでも評価される)、Michel Moersはボーカルと作詞を主に担当しました。彼らはスタジオでのサウンド作りを重視し、演奏よりもレコーディングを中心に活動した点が特徴です。
Telexは初期からユーモアと皮肉を伴うポップ感覚を持ちつつ、ディスコ、パンク、実験的な電子音楽をミックスしたサウンドを打ち出しました。アンサンブルはほぼすべてシンセサイザーやドラムマシンなどの電子楽器で構築されており、クラフトワークのような機械的で整然とした美学を感じさせる一方、意外性のあるメロディやウィットに富んだ歌詞で聴衆を引きつけました。
ユーロビジョン参加(1980年)
1980年、Telexのマネージャーからの依頼でグループはユーロビジョン・ソング・コンテストに出場しました。彼らのエントリー曲「Euro‑Vision」は、コンテスト自体を皮肉るようなわざと陳腐で陽気な歌詞と、あえて淡々としたボーカルを組み合わせた楽曲で、観客の反応をあえて揺さぶるような演出が特徴でした。会場の空気は戸惑いに満ち、演奏終了後は一時的な沈黙が広がったと伝えられています(観客の戸惑いを撮影したというエピソードも残ります)。投票の集計中にも微笑ましいハプニングがあり、ギリシャがベルギーに3点を与えた際にアナウンサーが聞き間違いと勘違いする場面などがありました(結果や順位は当時の公式記録を参照してください)。この参加はTelexの「意図的に普通でない」アプローチを広く知らしめる機会となりました。
アルバム制作とその後の展開
3枚目のアルバム制作時には、アメリカのバンド、Sparksが作詞で協力するなど国際的な交流もありましたが、当時もその後もTelexは基本的にライブ活動をほとんど行わず、スタジオワークに徹したままでした。これは現在ではエレクトロ/テクノ系のアーティストにとって一般的なスタンスですが、1980年代初頭としては珍しいものでした。テレックスの4枚目のアルバム、ワンダフル・ワールドは流通が限定され広く行き渡らなかったため、後年までレア盤として語られることが多い作品です。
1986年にアトランティック・レコードはTelexと契約し、この時期の作品ではサンプリング技術を積極的に取り入れ、よりアップテンポでユーモラスなアプローチを強めていきました。1989年には過去のトラックを再訪して、当時のクラブ・シーンで流行していたハウス・ミュージックの感覚を取り入れたリミックス作業を行い、自身の楽曲をダンスフロア向けに再構築しました。
約20年の活動休止期間ののち、Telexは2006年3月にEMI RecordsからHow Do You Danceでカムバックを果たしました。このアルバムは5曲のオリジナル曲と5曲のカバーを収録し、彼らのユーモアと確かなプロダクション技術が再評価されるきっかけとなりました。
音楽性の特徴
- 電子中心の制作:アナログ/デジタルのシンセやドラムマシン、後期はサンプリングを多用。
- ドライでデッドパンなボーカル表現:感情を抑えた語り口がユーモアと皮肉を際立たせる。
- ポップと実験の融合:キャッチーなメロディと前衛的な音響実験を同居させる作風。
- スタジオ志向:ライブよりも録音・編集・プロダクションに重点を置いた活動。
代表作と聴きどころ
- 「Euro‑Vision」── ユーロビジョン出場曲。皮肉とポップが同居する代表曲の一つ。
- 初期および中期のシングル/アルバム群── シンセポップの先駆的試みが詰まっている。
- How Do You Dance(2006年)── 復活作。オリジナルとカバーを通してバンドの多面性を示す。
影響と評価
Telexはベルギーのエレクトロニック/シンセポップ・シーンにおける先駆者の一組と見なされ、後年のテクノやエレクトロニカ、リミックス文化に与えた影響は大きいと評価されています。ユーモアとアイロニーをサウンドに取り込む手法や、スタジオでのサウンド作りに重きを置く姿勢は多くのアーティストにとっての一つの参照点となりました。メンバーはその後もプロデューサーやソロ活動を通じて音楽界に関わり続けています。
補足:ライブについて
Telexは原則としてライブを行わない、あるいは極めて少ないグループでした。ステージでの大がかりなパフォーマンスよりも、レコードというフォーマットを通じてリスナーに対する仕掛け(皮肉や遊び心)を作品に込めることを選んだ点が、彼らのユニークさを際立たせています。
Telexの作品は、シンセポップやエレクトロニカの歴史を辿る上で重要な位置を占めます。初期音源から復活作までを聴き比べることで、電子音楽の技術的・表現的変遷を感じ取れるでしょう。