アイルランドのバンド「ザ・フレイムズ」のグレン・ハンサードと、チェコで古典的な訓練を受けたピアニストであり歌手でもあるマルケタ・イルグローヴァの2人で結成された「スウェル・シーズン」。彼らは2008年にアカデミー賞歌曲賞を受賞しています。
結成と初期活動
ハンサードは長年にわたりアイルランドのロック・シーンで活動してきた一方、イルグローヴァはチェコで音楽教育を受けて育ちました。二人が出会ったのは、ハンサードのバンド活動やソロの現場での共同制作を通じてで、互いの音楽的な感性が強く共鳴したことからデュオとしての道を歩み始めます。ポップ/ロックを基調にしつつフォークやアコースティックの要素を強く持つそのサウンドは、ミニマルで親密な演奏と率直な歌詞が特徴です。
録音と映画『Once』
デュオは2006年に初のレコーディング「The Swell Season」を発表しました。これは、ザ・フレイムズの6枚目のCD『The Cost』をリリースした直後のことで、二人の化学反応を記録した作品として注目されました。のちに二人は2007年にサンダンス映画祭で上映されたアイルランドの人気映画『Once』にも労働者階級の移民役で出演し、映画内で演奏された楽曲群が大きな反響を呼びました。
映画『Once』の中心となった楽曲「Falling Slowly」は、シンプルながら胸に迫るメロディと真摯な歌詞で国際的な注目を集め、翌年のアカデミー賞で歌曲賞を受賞しました。ハンサードはアイルランド出身者として初めて同部門で受賞し、イルグローヴァはチェコ人女性として初めてオスカーを受賞、受賞時は19歳でミュージカル部門のオスカー受賞者としては最年少の一人となりました。この栄誉によって、二人のデュオ「うねりの季節」は一躍国際的な知名度を得ました。
サウンドトラックとライブ活動
映画のサウンドトラック『Once: Music from the Motion Picture』は商業的にも成功し、2008年2月にはゴールド認定を受けるなど好評を博しました。二人はこの成功を受けて世界各地でツアーを行い、多くの会場がソールドアウトとなるなどライブでも高い評価を得ました。ツアーの中で生まれた親密な関係性は観客にも伝わり、ステージ上のやり取りや演奏の緊張感が評判となりました。
私生活とその後
ツアー中、ハンサードとイルグローヴァは交際を始めました。ハンサードは当時「ずっと恋に落ちていたが、彼女はまだ若いと自分に言い聞かせていた」と語っています。2007年には映画『I'm Not There』のためにボブ・ディランの『You Ain't Goin' Nowhere』をレコーディングするなど共同作業も続けられましたが、2009年にはハンサードが二人はもはや恋愛関係ではなく、「良き友人」であると述べています。互いに音楽家としての道を尊重しつつ、個別の活動も展開しています。
オスカー授賞式での一幕
2008年2月24日、ロサンゼルスのコダック・シアターで行われたオスカー放送で、ハンサードとイルグローヴァが同曲を生演奏しました。授賞時、二人がステージに上がった際に彼女のスピーチがオーケストラの合図で中断され、舞台袖に戻る形になってしまったため論争が生じました。司会のジョン・スチュワートはコマーシャルブレイク後に彼女へ改めてスピーチを促し、授賞式の演出を巡っては当時ディレクターのギル・ケイツ氏が「初期の合図は事故だった」と説明しています。
イルグローヴァはその場で次のように述べました。「皆さん、こんにちは。本当にありがとうございます。これは私たちにとってだけでなく、他のインディペンデント・ミュージシャンやアーティストにとっても大きな出来事です。夢がどれほど遠くにあっても、それは可能であるという証明です。夢を持ち続ける勇気と、諦めない人たちにフェアプレーが必要です。この曲は希望の観点から書かれたもので、希望は最後には私たちを結びつけます。どんなに違っていても、希望は人々を繋ぎます。ありがとう。」
音楽的影響と遺産
スウェル・シーズンの音楽は、映画の低予算・自主制作的な背景と相まって、多くのリスナーに「生の感情」を届けました。シンプルな編成と感情の込もった歌唱は、インディー・フォークやシンガーソングライター系のリスナーに強く支持されました。映画『Once』を原作とした舞台ミュージカルも高い評価を受け、ブロードウェイでの成功(トニー賞受賞など)を通じて作品と楽曲の影響力はさらに広がりました。
その後、ハンサードはソロでも活動を続け、イルグローヴァも作曲や演奏を通じて音楽活動を継続しています。二人の共同作品は、インディペンデントな表現が商業的成功と批評的評価の双方を得られることを示した好例として、今も多くのリスナーや若いアーティストに影響を与え続けています。