おとめ座銀河団は、おとめ座の中心から5,380±30万光年(16.5±0.1メガパーセク)の距離にある銀河団です。この銀河団は、おとめ座スーパークラスターの中心部を形成しています。
おとめ座銀河団には約1300個の銀河があります。その総質量は約1.2×1015太陽質量と見積もられており、天球上では視直径がおよそ8度に及ぶ広がりを持ちます。物理的な半径は約220万パーセク(約2.2メガパーセク)で、メンバー銀河の距離分散により奥行き方向にも数メガパーセクの広がりがあります。
巨大な楕円銀河メシエ87を含む、この星団の明るい銀河の多くは、1770年代後半から1780年代前半に発見されました。これらの銀河は、チャールズ・メシエの非彗星性ファジー天体のカタログに含まれています。メシエは星のない星雲と表現しましたが、その真の姿が認識されたのは1920年代に入ってからでした。この星団のメンバー銀河の多くは、小型の望遠鏡で見ることができます。その中でも最も明るいのは、メシエ49番の楕円銀河です。
構造とサブグループ
おとめ座銀河団は単一の球状系ではなく、複数のサブクラスター(代表的にはメシエ87を中心とする“Virgo A”と、メシエ49を中心とする“Virgo B”など)から成る非等方的な集団です。銀河団内には渦巻銀河、楕円銀河、レンズ状銀河など多様な形態の銀河が混在し、銀河同士の相互作用や合体が活発に起こっています。
熱い間隙ガスとX線放射
銀河団の深い重力井戸には高温(数千万ケルビン)の希薄な銀河間媒質(intracluster medium, ICM)が満ちており、これが強いX線放射を生みます。ICMは銀河団全体の質量のかなりの部分を占め、銀河団全体のダイナミクスや冷却フロー、銀河の星形成抑制などに重要な役割を果たします。
注目天体:メシエ87(M87)と超大質量ブラックホール
M87は強力な電波ジェットや活動銀河核(AGN)で知られる巨大楕円銀河で、2019年にはその中心の超大質量ブラックホールの影がイベントホライズン望遠鏡(EHT)によって初めて撮像され、広く注目されました。M87は銀河団の重心近くに位置し、周囲の銀河と相互作用を続けています。
距離測定と宇宙論的意義
おとめ座銀河団は比較的近傍にあり、ケフェイド変光星、表面輝度変動(SBF)、超新星(Ia 型)など複数の距離指標を用いて距離スケールの校正に重要な役割を果たします。また、局所宇宙(ローカルボイドやローカルスーパークラスタ)の力学や銀河の運動を調べる上でも基準的存在です。
観測のポイント
- 肉眼では見えないが、双眼鏡や小口径望遠鏡でメシエ天体のうち多数を分離して確認できる領域です。
- M87やM49、M86、M84などはアマチュア天文家にも人気の対象で、光度や形態の違いを観察することができます。
- X線や電波、可視光で見える構造が異なり、多波長観測によって銀河団の質量分布や銀河の活動史を総合的に理解できます。
まとめ
おとめ座銀河団は、距離約16.5メガパーセク(約5,380万光年)の近傍に位置する大規模構造で、約1300個の銀河と大量の熱い銀河間ガスを含む重力的に結びついたシステムです。メシエ87をはじめとする明るい楕円銀河や、多様なサブクラスタ構造、そしてX線や電波で見える活動現象など、天文学的・宇宙論的に非常に重要な観測対象となっています。


