アルベール・フェール(Albert Fert、1938年3月7日生まれ)は、フランスの物理学者である。巨大磁気抵抗の発見により、ギガバイト級のハードディスクを容易に製作できるようになった。パリ南大学オルセー校教授、Unité mixte de rechercheという研究所の科学部長を務めている。この研究所は、国立科学研究センター(Centre national de la recherche scientifique)とタレスグループの一部である。2007年、ドイツの物理学者ピーター・グリュンベルクとともにノーベル物理学賞を受賞した。
業績と発見の概要
巨大磁気抵抗(Giant Magnetoresistance, GMR)は、磁性金属と非磁性金属を交互に重ねた多層薄膜で磁場により電気抵抗が大きく変化する現象です。フェールのグループは1988年にこうした金属多層での非常に大きな磁気抵抗変化を観測し、その原因を電子のスピンに依存した散乱過程に求めました。簡単に言えば、隣り合う磁性層の磁化が平行か反平行かにより、電子の流れ(特にスピン分極した電子)の散乱が変化し、それが抵抗の大きな差として現れます。
影響と応用
GMRの発見は即座に実用化に結びつき、読み取りヘッドの検出感度を飛躍的に向上させたため、ハードディスクの高密度化(ギガバイト級・テラバイト級への道)を実現しました。さらにこの発見はスピンを利用する電子工学分野、いわゆるスピントロニクスの基礎を築き、以下のような応用・研究領域の発展を促しました。
- 高感度磁気センサー(磁気ヘッド、位置検出センサーなど)
- 磁気メモリ(MRAM:磁気ランダムアクセスメモリ)などの不揮発性メモリ研究
- スピン注入・スピン輸送、スピン軌道トルクなど新しいスピン物理の基礎研究
経歴と研究活動
フェールは長年にわたり薄膜・多層構造の磁性および電子輸送現象を研究してきました。学術界と産業界の共同研究にも積極的に関与し、基礎物理の発見を実用技術へ橋渡しする役割を果たしてきました。パリ南大学(オルセー)での教育・研究活動に加え、国立研究機関や企業系研究所と連携したプロジェクトに携わっています。フェール自身の研究はGMRの発見以後もスピントロニクス材料の探索やデバイス応用の研究へと発展し、国際的な共同研究や多数の学術論文を通じて分野に大きな影響を与えています。
受賞と評価
2007年のノーベル物理学賞は、独立に同様の現象を見出したピーター・グリュンベルクとフェールの業績を共同で顕彰したものです。GMRの発見は基礎物理の面白さと産業応用の結びつきを示す好例として高く評価されており、フェールは世界的に権威ある賞や名誉を受けるとともに、スピントロニクス分野を代表する研究者の一人と見なされています。
関連用語(簡単な説明)
- スピントロニクス:電子の電荷だけでなくスピンを情報の担い手として利用するエレクトロニクス分野。
- 多層薄膜:異なる材料をナノメートルスケールで交互に堆積した構造。磁気的・電気的性質を人工的に設計できる。
- 磁気抵抗:磁場に応じて変化する電気抵抗の総称。GMRはその一種で、非常に大きな変化を示す。
フェールの研究は現在も続いており、スピンを利用した新しい機能素子や省エネルギー型デバイスの実現に向けた基礎研究に大きく寄与しています。