Candidatusとは、細菌の分類学(科学的な分類)で用いられる仮の表示名(provisional status)です。
定義と用途
「Candidatus」は、寒天培地やその他の細菌学的な培養法で安定的に単離・培養できない、あるいは純粋株として保存できない微生物(主に細菌や古細菌)に対して付けられる仮称です。実例としては、"Candidatus Phytoplasma allocasuarinae" のような表記が使われます。培養ができないために正式な命名規則(国際的な細菌命名規約)の下で「掲載(validly published)」された名前にはならない点が特徴です。
表記・略称
文献ではしばしば Candidatus を頭に置き、続けて提案する属名・種名を記載します。慣例として「Candidatus」を省略して「Ca.」と書くこともあります。使用する際の具体的な斜体や活字の扱いは論文や誌の慣例によって異なるため、投稿先のスタイルガイドに従ってください。
提案に用いられる情報
培養株が得られない場合でも、次のような情報を根拠にして Candidatus 名称が提案されることが多いです:
- 16S rRNAなどの遺伝子配列や、メタゲノム/単一細胞ゲノミクスによるゲノム配列(16SリボソームRNAの配列解析を含む)
- 電子顕微鏡や蛍光 in situ ハイブリダイゼーション(FISH)などによる形態学的・局在情報
- 宿主や生態的な関連(病原性や共生関係など)の記述
- 系統解析や多遺伝子解析による分類的位置付け
分類学上の位置づけと法的地位
Candidatus 名はあくまで「暫定的なラベル」であり、国際的な細菌命名規約(ICNP: International Code of Nomenclature of Prokaryotes)では正式な学名(validly published name)としては扱われません。したがって、Candidatus 名は学術的に広く参照されても、正式な種名としての法的効力やタイプ株に関する条件を満たしていないことに留意が必要です。培養可能になり、規約に従って記載・公表されれば、正式な属・種名として置き換えられます。
最近の技術動向
近年は高スループットなシーケンシング技術、メタゲノム解析、単一細胞ゲノミクス、組織内/環境試料からのゲノム再構築(MAGs:metagenome-assembled genomes)などにより、培養できない微生物の遺伝情報や生態が詳細に明らかになってきました。こうした背景から、配列情報やゲノムに基づく命名(例えば提案されたSeqCodeなどの枠組み)について議論が進んでいますが、これらはICNPとは別の議論であり、受け入れ状況は流動的です。
代表的な例と注意点
「Candidatus」に分類される生物の例としては、植物病原性や昆虫ベクターと関連のある複数の候補種(例:Candidatus Liberibacter や Candidatus Phytoplasma など)が知られています。研究者がCandidatus 名を使用するときは、提案の根拠(配列アクセッション番号、観察手法、宿主情報など)を明確に示すことが求められます。
まとめると、Candidatus は「培養できない、あるいは十分に記載されていない微生物を示す分類学上の仮称」であり、配列データや形態情報に基づいて広く用いられている一方で、正式な学名としての扱いは受けない点に注意が必要です。