ファイトプラズマとは|植物寄生マイコプラズマ様生物(Candidatus)の定義・症状・媒介昆虫

ファイトプラズマの定義・症状・媒介昆虫を分かりやすく解説。経済作物被害、実験室で培養不可のCandidatusの特徴、診断・防除の要点まで網羅。

著者: Leandro Alegsa

ファイトプラズマは植物に寄生する微小な病原体で、かつては寄生虫のように扱われることもありましたが、現在は細胞壁を欠く細菌(Mollicutes)に分類されると考えられています。ヤシサトウキビビャクダンなど、農業や林業で重要な多くの植物種に感染し、深刻な経済被害を引き起こします。これらは一般に植物の〈病原菌〉として扱われます。

ファイトプラズマは植物の葉茎などの師部(篩部)組織に局在的に寄生し、師部を通じて植物全体に広がります。自然界では主に媒介昆虫によって伝播します。1967年に発見され、当初は マイコプラズマ様生物(MLO)と呼ばれました。これらは試験管内(実験室内)で培養することが非常に難しいため、生物学的な扱いには制約があり、培養不能性を反映して"Candidatus"のような準正式名称が与えられることが多いです。

主な症状

  • 葉の黄化・葉緑素欠乏(黄葉)や葉が小型化すること。
  • 植物の成長抑制、株全体の衰弱・枯死に至る場合がある。
  • 花の奇形(花が葉化する phyllody や緑化〈virescence〉)、結実不良。
  • 枝条化(側芽が過剰に伸びる“茎化”)、茎の変形や萎縮。
  • 作物では収量や品質の著しい低下を招く。

媒介昆虫と伝播経路

  • 主な媒介者は師部を吸汁する昆虫で、ヨコバイ類(leafhoppers)、ウンカ類(planthoppers)、サンザメ類やニジンヒメヨコバイに代表されるものなどが含まれます。
  • 媒介は通常「持続的・増殖性伝達」で、昆虫体内でファイトプラズマが増殖し長期間感染力を保持します。
  • 人為的伝播としては、挿し木・接ぎ木などの栄養繁殖材料を介した伝染が重要です(種子伝播は一般に稀)。

診断と検査

  • 伝統的には電子顕微鏡で篩部内の小胞体様構造を観察する方法が用いられてきましたが、感度は限定的です。
  • 現在は分子診断が主流で、16S rRNA 遺伝子を標的にした PCR(ネストPCR やリアルタイムPCR)や配列解析により種や群の同定が行われます。
  • 血清学的検査(抗体を用いる方法)や RFLP、シーケンスに基づく系統解析(16Sr グループ分類)も利用されます。

防除と管理

  • 最も有効なのは感染源の除去(羅患株の早期抜取り、焼却など)と、衛生的な種苗(病害フリーの苗木)の使用です。
  • 媒介昆虫の防除(適切な薬剤散布、季節的な防除タイミングの管理、粘着トラップやモニタリング)により感染拡大を抑えます。
  • 抵抗性品種や耐病性系統の育成、隔離栽培・検疫措置、栽培管理の改善(栄養管理や間引き)も重要です。
  • 挿し木や接ぎ木材料の検査・認証制度、温風処理や組織培養による消毒的処理は、特に果樹・花き・観賞植物で利用されます。

分類・命名(Candidatus の意義)

ファイトプラズマの多くは培養が確立されていないため、正式な種の記載に必要な基準(単離・培養)を満たしません。そこで分子系統学的な証拠に基づき、"Candidatus Phytoplasma ..." のような準公式名が用いられます。16S rRNA を基にしたグループ(16Sr グループ)分類が広く使われ、これにより疫学的・生態学的な解析が行われます。

研究上の課題と経済的重要性

ファイトプラズマは幅広い宿主範囲と複雑な媒介者関係を持つため、発生予測や防除が難しい病害です。気候変動や媒介昆虫の分布変化により新しい地域で問題となることもあります。ヤシの致死性病害や、サトウキビの収量低下、さらには香木類(ビャクダンなど)への被害など、農林業に与える影響は大きく、早期診断と統合的防除が求められます。

まとめると、ファイトプラズマは師部に寄生する細胞壁を持たない細菌群であり、昆虫媒介や栄養繁殖によって広がります。診断には分子手法が不可欠で、防除には感染源管理と媒介昆虫対策を組み合わせた総合的なアプローチが有効です。



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