「dementia praecox(早発性痴呆)」とは:モレルの定義からクレペリン・ブルーラーの変遷
「dementia praecox(早発性痴呆)」の誕生からクレペリン・ブルーラーによる概念変遷を歴史的背景とともに解説。モレルの定義と精神医学史を丁寧に追う。
ベネディクト・オーグスタン・モレル(Bénédict-Augustin Morel)が1860年に用いた言葉で、10代の若者が社会から引きこもり、認知症に似た症状を示すようになった状態を表しました。もともとの呼称「démence précoce(早発性痴呆)」は、若年で起こる認知や行動の退行を指す観察的な記述に由来しますが、現在の用語では「痴呆(ちほう)」という言葉は差別的・古風とされ、一般には「認知症」が使われます。なお、一般的な認知症は主に高齢者に発症することが多い点で、モレルが観察した若年性の経過とは区別されます。
クレペリンによる分類と対比
Emil Kraepelin はこの語を精神医学の体系に取り入れ、経過や予後の違いから当時の他の精神疾患と区別しました。具体的には、双極性障害と呼ばれるような躁うつ性の疾患では、比較的はっきりした回復や寛解を繰り返すエピソードが見られるのに対し、当時「dementia praecox」とされた群は進行性で持続する傾向がある、として両者を対比しました。Kraepelin は予後(経過と結末)を重視したため、この分類は臨床的に多くの影響を与えましたが、後の研究でその単純化には限界があることが示されます。なお、初期の経過を示す状態を指す前駆病変(前駆状態)についても、特徴や転帰は個々で異なります。
ブルーラーと「精神分裂病(シゾフレニア)」への転換
20世紀初頭、オイゲン・ブルーラー(Eugen Bleuler)は「dementia praecox」という概念を見直し、症状の質的な特徴(連合の障害、自閉、両価性、感情の変容など)を重視して、新たにschizophrenia(日本語では一般に「統合失調症」または歴史的には精神分裂病)という概念を提唱しました。ブルーラーの提案は、必ずしも早期に不可逆的な痴呆に至るものではないという見方を示し、予後の多様性を強調しました。日本語や各国での用語の普及には地域差や時期差があり、「精神分裂病」「統合失調症」といった呼称の受容も歴史的に変化しています。
現代の理解と臨床への影響
- 用語の変遷:「dementia praecox(早発性痴呆)」は現在では歴史的・学術的な用語とされ、現代の診断分類(DSMやICD)では「統合失調症(schizophrenia)」などより詳細な診断基準が用いられます。
- 病態の理解:一律に進行する「早発性痴呆」という考え方はあらゆる患者に当てはまらず、遺伝的要因、発達・神経生物学的要因、環境的要因が複雑に絡み合う多因子的な疾患として捉えられています。
- 治療と予後:抗精神病薬を中心とした薬物療法や心理社会的支援(早期介入、リハビリ、家族支援など)により、機能の回復や社会復帰が期待できる場合が増えています。早期発見・早期治療は予後改善に重要です。
- 言葉と偏見:「痴呆」や「分裂」といった語は誤解や偏見を生むことがあるため、用語選択や説明の仕方には配慮が求められます。
まとめると、「dementia praecox(早発性痴呆)」は19世紀から20世紀初頭にかけて精神医学の発展過程で用いられた歴史的概念であり、Kraepelin の予後重視の分類と、Bleuler の症状重視の再定義がその後の「統合失調症」概念の成立に大きく寄与しました。現代では診断・治療法が発展し、単純な「若年性の痴呆」という捉え方は改められています。

オイゲン・ブルーラーの作品の初刷り
質問と回答
Q: 「Dementia praecox」という用語はいつ、誰が最初に使用したのですか?
A: "Dementia praecox "という言葉は、1860年にベネディクト・オーギュスタン・モレルによって初めて使われました。
Q: モレルが "Dementia praecox "という言葉を使うきっかけとなった10代の若者の状態はどのようなものでしたか?
A:その10代の若者は社会から引きこもり、認知症と同じような症状を示すようになった。
Q:老人に多く見られる精神疾患は?
A:認知症は主に老人に起こる精神疾患です。
Q:エミール・クレーペリンはどの精神疾患を「認知症」と対比させたか?
A: Emil Kraepelinは「Dementia praecox」を双極性障害と対比しています。
Q: 双極性障害の人に正常のエピソードはありますか。
A: はい、双極性障害の人にも正常のエピソードがあります。
Q: "Dementia praecox "の人にも、正常に見えるエピソードがあるのですか?
A: いいえ、「前駆期痴呆」の人には、正常に見えるエピソードはありません。
Q: Eugen Bleulerが "Dementia praecox "を説明するのに使った言葉はどれですか?
A: オイゲン・ブルーラーは、「Dementia praecox」は実際には精神分裂病であると言いました。
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