ジアステレオマー(ジアステレオ異性体ともいう)とは、エナンチオマーではない立体異性体のことである。ジアステレオマーは、同じ原子と結合を持つが、すべてではなく少なくとも1つのキラル中心で異なる立体化学を持つ分子である。外観が似ていても、融点・沸点・溶解度・屈折率・化学反応性などの物理化学的性質が大きく異なる場合が多く、人体や触媒系などの不斉環境下での挙動も異なる点が、エナンチオマー(鏡像異性体)と決定的に異なる点である。
基本的な性質と成り立ち
分子内の各キラル中心(不斉中心)は、空間内で2通りの配向(例えばRまたはS)を取り得る。キラル中心が1つだけの分子では2つのエナンチオマーが存在する。キラル中心が2つあると理想的には2^2 = 4通りの立体異性体が考えられる。そのうち、全てのキラル中心を同時に反転させた対がエナンチオマーの一組を作るのに対し、部分的にしか反転していない組はジアステレオマーになる。
ジアステレオマーとエピマーの違い
ジアステレオマーは「エナンチオマーでないすべての立体異性体」を指しますが、エピマーはその中のより狭い概念で、2つ以上のキラル中心がある分子でちょうど1つのキラル中心だけが異なる関係を指します。言い換えると、すべてのキラル中心が同じか全て逆になっている場合はエナンチオマー(または同一体)ですが、少なくとも1か所異なり、鏡像ではない場合はジアステレオマーで、そのうち「ちょうど1か所だけ違う」ものをエピマーと呼びます。
例:D-ThroseとD-Erythrose(図示される糖)は、2つの不斉中心のうち1つだけが異なるので、互いにジアステレオマーであり、かつエピマーでもあります。
物理化学的性質と分離
- ジアステレオマー同士は、融点、沸点、溶解度、屈折率などが通常異なるため、一般的な物理的・化学的手法(結晶化、蒸留、通常のクロマトグラフィーなど)で比較的容易に分離できます。
- 対照的にエナンチオマーは鏡像関係にあるため、対称でない環境(例:キラル試薬やキラルカラムなど)を用いないと区別・分離が困難です。
- 光学活性に関してはジアステレオマーの回転角は一般に等しく逆符号になるとは限りません(エナンチオマーは等しく逆符号のはずです)。
補足:メソ体と立体異性体の総数
n 個の独立したキラル中心があれば理論上最大で 2^n 通りの立体異性体が存在しますが、分子に内部鏡面や回転対称性があると実際の異性体数は減少します。例えばメソ体(内部対称面を持ち、全体としてはアキラルな分子)は、同じ配置を持つ鏡像と一致するため、立体異性体の総数が 2^n より少なくなります。メソ体は他のキラル立体異性体に対してジアステレオマーとなる場合があります。
命名と立体化学の扱い方
個々のキラル中心の配置はR/S表記で示されます。ジアステレオマーは一部の中心のみがR→S、またはS→Rに変わった関係となるため、R/S表記で比較すれば容易に区別できます(例:(R,R) と (R,S) はジアステレオマー)。
実用的意義(製薬・合成化学など)
- 薬学分野では、ジアステレオマーは活性や毒性が大きく異なることがあり、目的とする生物学的活性を得るには特定の立体異性体を単離・合成する必要があります。
- 合成化学では、ジアステレオマーを制御するための立体選択的合成や立体転換(エピメリ化)などが重要な課題になります。
まとめ(ポイント)
- ジアステレオマーは鏡像ではない立体異性体の総称で、少なくとも一つのキラル中心で立体化学が異なる。
- エピマーはジアステレオマーの一種で、2つの分子が「ちょうど1つの不斉中心だけ」で異なる場合を指す。
- ジアステレオマーは物理化学的性質が一般に異なるため、分離や性質評価が比較的容易で、実用的にも重要である。