エドワード対アギラード事件(1987年米最高裁判決):創造論と確立条項の解説
1987年米最高裁判決・エドワード対アギラード判例を、創造論の法的評価と確立条項の意義をわかりやすく解説。
エドワード対アギラード事件は、創造論は科学ではないとした1987年のアメリカ合衆国最高裁判所の事件です。なぜなら、合衆国憲法(アメリカのすべての政府が従わなければならない一連の規則)は、政府がある宗教を他の宗教よりも支援することを認めておらず、したがって、政府が運営する学校は、宗教を真実であると教えることはできないとしたからです。このルールは「確立条項」として知られています。
背景:何が争われたか
争点は、州法が公立学校の授業で「進化論が教えられる場合は創造科学も併せて教えなければならない」と定めたことが、合衆国憲法の確立条項に反するかどうかでした。問題となった法律は、「バランスの取れた扱い(balanced treatment)」を義務づける形を取っていましたが、立法の経緯や定義の内容から、裁判で宗教的目的を意図していると指摘されました。
最高裁の判断と理由(概要)
- 判決:最高裁は当該州法を違憲(確立条項違反)と判断しました(Edwards v. Aguillard, 482 U.S. 578 (1987))。
- 適用された基準:裁判所は従来の「Lemonテスト」(Lemon v. Kurtzman)に基づき判断しました。Lemonテストはおおむね次の三点を求めます:1) 世俗的目的があること、2) 主たる効果が宗教を促進しないこと、3) 宗教と過度に関わらないこと。
- 結論のポイント:裁判所は当該法が世俗的目的を欠き、立法の背景や文言から宗教的な目的(特定の宗教観を支持・促進する意図)を持っていると判断しました。したがってLemonテストの要件を満たさないと結論づけられました。
- 科学性の側面:裁判所はまた、法律が「創造科学」を科学と同列に扱おうとした点についても批判しました。判決では、創造論が超自然的説明に依拠し、実証的な方法論に根ざしていないなどの理由で、科学的な理論とは区別されると指摘されました。
この判決の影響
エドワード対アギラードの判決は、公立学校で宗教的教義を公的に教えることに対する法的な制約を明確にしました。具体的には:
- 公立学校が特定の宗教的信念(例:創造論)を「科学」として教えることは、憲法上問題があるとされた。
- 教育現場で宗教を扱う場合でも、歴史や文学、宗教学的な文脈で中立的・学術的に取り上げることは許されるが、宗教的信念を支持・宣伝することは許されない。
- 後の判例(例:2005年のKitzmiller v. Dover(学区レベルの裁判)など)でも、創造論やインテリジェント・デザインが宗教的主張であることを理由に公立教育での教示が問題視されています。
実務上の注意点(学校・教育委員会向け)
- 公立学校で扱う「科学」の指導は、検証可能性・反証可能性・ピアレビューなどの科学的方法に基づくことが求められる。
- 宗教的・哲学的な見解を教える場合は、学術的・比較宗教学的な観点で「紹介」する形にとどめ、特定宗教の信念を信者の立場で推奨しない。
- 教育方針や教科書の採択を行う際は、憲法上の確立条項の制約を踏まえ、法的リスクを避けるための検討・助言を受けることが望ましい。
補足
判決は「創造論そのものが個々人の宗教的信念として存在すること」を否定するものではありません。むしろ、裁判所の焦点は「政府(公的機関)がそれを支援・促進してよいかどうか」であり、公共教育における国家の中立性(宗教的中立)を維持することが目的です。
この事件は、科学教育と宗教的信仰が交差する場面での法的線引きを示す重要判例であり、アメリカの教育政策や憲法解釈に継続的な影響を与えています。
関連ページ
- Kitzmiller v. Dover Area School District、類似の裁判例
質問と回答
Q: エドワーズ対アギラード事件とは何ですか。A: エドワーズ対アギラード事件は1987年の合衆国最高裁判所の事件です。
Q:最高裁は創造論についてどのような判断を下しましたか?
A: 最高裁は、創造論は科学ではなく、むしろ宗教であるとしました。
Q: なぜアメリカの学校では創造論を教えられなかったのですか?
A: 創造論はアメリカの学校で教えることができませんでした。合衆国憲法は、政府がある宗教を他の宗教よりも支持することを認めていないからです。
Q: 制定条項とは何ですか?
A: 確立条項は、政府がある宗教を他の宗教よりも支持することや、学校で宗教を真実であると教えることを禁止する規則です。
Q:確立条項は、学校が宗教を教科として教えることを認めていますか?
A: はい、確立条項は、学校が宗教を教科として教えることを認めていますが、ある宗教を真実であると宣伝する手段としてではなく、客観的かつ世俗的な方法でのみ認めています。
Q:合衆国憲法の目的は何ですか?
A: アメリカ合衆国憲法の目的は、アメリカ政府の枠組みを確立し、アメリカ市民の権利と自由を守ることです。
Q: エドワーズ対アギラード事件の意義は何ですか?
A: エドワーズ対アギラード裁判は、合衆国憲法の確立条項により、創造論をアメリカの学校で科学として教えることができないことを立証した点で重要です。
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